読書記録 | 太宰治の「畜犬談」から思う、太宰さん実はポチのこととても気にかけてますよね?談
恥ずかしながら漸く今頃、太宰治の「畜犬談」を拝読したのであるがこれがとても面白い。
これまで通読した太宰治の作品はほんの一握りで、その中でも私は「八十八夜」を好むのであるが、「畜犬談」はそれを凌ぐほど面白かった。
何が「面白いか」、作者独特の流れるようなリズムと滑らかな文に、犬を相手取るおそらく作者の感情の機微が、いつの間にか読者の鼓動に相まってとても豊かなのである。
おそらく作者太宰さんであろう主人公は、畜生と呼ぶぐらい徹底して犬が嫌いで、噛みつかれる報復を畏れているとうそぶきながら、愛犬家じゃないかよと突っ込みたくなるぐらい自分に懐いたダックスフンドと思われる犬を可愛がっている。
主人公はまるで漫画に一人はいるようなひねくれ者のような態度で犬に接しているのであるが、そうすればするほど反面に滲み出る愛情が見えてくるようで、何だか胸にジンと来るものまで覚えるのである。
最後のシリアスな場面でポチ(犬)が死ななくてホッとしつつ、優しさを全面に押しだした太宰さんの言葉にまた胸がジンとする。
太宰治で読んでみた方がいい作品は?と誰かに問われたら、今のところ私は間違いなく「畜犬談」を一番に推すだろう。
最後の場面について私なりの考察をひとつ。
犬のポチは、飼い主の主人公に毒を盛られるのであるが生きていた。
そもそも皮膚病を患ったポチを屠るように指示した妻の顔があるので、主人公は渋々それを実行するのであるが、もしかすると実行に移すことに意義があると思った主人公が、致死量未満の量を含ませて、密かに生きていてくれたらいいと思っていたのかもしれない。
何故なら、作中ひねくれていながらも誰よりもポチを寵愛していたのは主人公なのだから。
そうじゃないですか、太宰さん?