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読書記録 | 「暗夜行路」の話中に出てくるガルシンの「四日間」に思うところ


先般通読した志賀直哉の長編小説「暗夜行路」であるが、この主役の青年の心の逡巡といった取りとめない話の中、青年が単身他所の地へ出奔する船上で、同船の外国人客にガルシンの小説を貸す場面がある。

外国人船客はその中の「四日間」という作品に痛く心を動かされ、作品を褒め称えるといったところまでのさりげない風景なのであるが、この作品を以前通読したはずのわたしはすっかりその内容を憶えていなかった。

なので早速本棚からガルシンの作品集「あかい花 他四篇」を取りだし、その収録作中の「四日間」を再読した。

当初は代表作の「あかい花」を目当てにこの作品集を買ったものであるが、他の四篇もこの代表作に引けを取らない素晴らしい筆致のものばかりである。

そしてこの「四日間」は、わたしの中では「あかい花」を凌ぐ作品であることに確信がある。

「暗夜行路」の作中の外国人船客が絶賛するのも分かる気がするのである。

両足を負傷し、戦場に一人取り残された兵士の生きるための四日間の呻吟が、自身の出征の場面から辿りながら"後悔先に立たず"という言葉を体現しているかの如く、読者の胸の内に迫って来るものがある。

帝政ロシア時代のウクライナ領の作家であるガルシンは、「あかい花」に見る壮絶な精神錯乱者の姿や「四日間」から厳かに漂う戦争の無益さなど、生命のあり方を克明に言語化した素晴らしい作家と言えるのではないだろうか。

生命について立派な作品を書き遺したガルシンは、惜しむらく若くして精神疾患を患い天に召されている。

たとえば通読すると、わたしの中でたちまち読んだ作品のトップに躍り出るのがガルシンの作品なのである。



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