【感想】小瀧望主演ミュージカル『ザ・ビューティフル・ゲーム』
舞台情報
2023-02-04 18:00~21:45
@梅田芸術劇場メインホール
作曲:アンドリュー・ロイド=ウェーバー
作詞:ベル・エントン
上演台本:瀬戸山美咲
振付:ケイティ・スペルマン
主演:小瀧望
『ザ・ビューティフル・ゲーム』
上演までの小話
今回のミュージカル観劇のきっかけは、ジャニーズWESTの小瀧望くんです。実は12月時点では彼は推しではなかったのですが、『ジャニーズWEST 1st DOME TOUR 2022 TO BE KANSAI COLOR -翔べ関西から-』での生歌映えする声質・歌唱力が印象的だったこと、加えて作品自体のテーマが興味深かったこともあり、チケットを購入しました。
しかし当日を迎える頃には、彼の端正な顔立ち・ダンスが映えるスタイルの良さ・歌唱力・演技力・No.1ギャガー・ワイプ職人ぶり…アイドルとしての溢れんばかりの才能と真面目な人柄にすっかり惚れ込んでいました☺
5時間バイトの研修を受けたあと、軽食を摂り、コンタクトを眼球に詰め込み、セブンイレブンに滑り込んでチケットを発券し、ワクワクしながら梅田芸術劇場へ🏃
メインホールでA席だったので、2階席最後列でした。オペラグラスがあれば表情も十分楽しめる距離感です。ステージ全体も観やすく、特に支障なく観劇できました。
STORY
舞台は北アイルランド。悪化しつつある宗教対立により、町には不穏な空気が仄めいています。そんな中、プロ入りが期待される有望で明るい青年・ジョンやその友人たちは、状況に違和感や抵抗感、不安感、諦念を感じつつも、仲間との交流、こそばゆい恋愛、熱いゲーム、それらを世界の全てのように感じ、全力で駆け抜けていきます。ティーンエイジャーの若さが眩しいです。
序盤の見せ場は、なんといっても幕開けすぐの“The Beautiful Game”!キャストの皆さんが、フルパワーで歌い、足を鳴らし、こちらに迫ってくるようで圧倒されました。「ドゥンドゥドゥドゥドゥ ドゥドゥドゥドゥ」のリズムが癖になります。
そして、そんな青春の日々に冷水を浴びせるかのような、チームメイト・ジンジャーのむごい死。今まで大勢に本気で抗わず、私的な実生活にのめり込んできたツケを払わされるかのようです。これをきっかけに、彼らの日常や絆は、はっきりと瓦解していきます。しかし、登場人物たちは強く、悪化していく状況の中でも日常的な幸せを積み上げていきます。
個人的には、死の前日にジンジャーと恋仲になったバーナデットが印象的でした。思いを伝えあった直後に、彼が拷問に遭い殺される。それでも、友人の結婚を素直に祝福し、メアリーの育児をそっと支える。彼女のおっとりした人当たりの良さの中に、悲しみも絶望も受け入れながら生きようとする高潔な精神性を感じました。
そんなこんなで、主人公・ジョンとメアリーがやっとの思いで手にした家庭の幸せも、彼の逮捕により完全に打ち砕かれます。エリートコースど真ん中だったジョンは、素朴に信じてきた自分の夢も家族との未来も手放し、絶望の中でIRAに取り込まれていきます。徐々にメアリーの声に耳を貸さなくなるジョン。すれ違う二人が痛々しく辛いです。そして出獄後、ジョンは自分を裏切った元チームメイト・トーマスと再会します。そこで、戦いの虚しさと同時に、どんな人間に成り果てていても、かつての友人は撃てない、と思い知ります。神父との「青春時代の約束を裏切るな」という約束を思い出したジョンは、最後の最後に、人を殺すことではなく、家族のもとに帰ることを選び、物語は幕を閉じました。
終盤においては、サッカーチームのメンバー1人1人の消息と共に、「ある世代がまるごと打ちのめされた」と語られたのが印象深かったです。1つの町、1つのサッカーチームのドラマという私的・ミクロな視点から、北アイルランド問題とその犠牲者という公的・マクロな視点へズームアウトされる感覚でした。
全体を通して感じたのは、まず、平穏な日常と凄惨な紛争は地続きであり、普通に生きているつもりでも気づけば後者に引きずり込まれうるという恐ろしさでした。そして、そこに抗うのは至難であるものの、揺るがない強い愛と人道精神を持つことが大切だというメッセージも受け取りました。重いテーマでしたが、サッカーというモチーフ、前半の陽気さや希望のある結末により、馴染みやすいストーリーになっていたと思います。
CAST
お目当ての小瀧くんは、お顔がめちゃめちゃ小さく、身体はすらりと長く、特に膝下が長かったです。もはやフィギュアかのような、生身の人間とは思えないスタイルでした。髪型はやや長めでカールがかかった茶髪であり、ヨーロッパという舞台設定に違和感のない風貌でした。
そして、『 TO BE KANSAI COLOR -翔べ関西から』でも感じていたように、声量が大きく、地声の高音域が広く、伸びやかで主役然とした歌声でした。アイドルの舞台・ミュージカルには何度か足を運んでいますが、彼の安定感はピカイチだと思います。本当に彼の歌は、生で聴かせることで更に本領発揮するタイプだなぁと思いました。
また、ジョンの華やかな天才ぶり、少し調子乗りだが根は善良で仲間思いなところ、総じて主人公っぽいキャラクターは、小瀧くんにばっちりハマっていました。一方で、小瀧くん元来の愛らしさはそっと隠され、白人青年らしく幼さのない表情作りがされており、「丁寧なナチュラルメイクみたいな役作りだなぁ」と思いました。でも、カーテンコールで初めて、たっぷりと光を浴びながら無邪気なベイビースマイルを見せてくれたとき、ズキュンッとダメ押しで心掴まれちゃいました笑
印象的だったのは、「結婚初夜だぞ!」と文句を言いながらもトーマスを助けに行くシーンや、「今のお前は撃てる。だが昔のお前を撃てない…っ!」と銃を下ろすシーン。胸熱です。小瀧くんは熱い男がめちゃ似合います。
ちなみに余談ですが、ジョンを「まっすぐ」と形容するのは、私には少し違和感があります。彼はいかなる時もまっすぐな信念を持っている、というタイプではなく、人格形成期や青年期に大きな挫折を経験しなかったことで、素直に善良に育った、というタイプだと思うのです。彼は優しいし才能に溢れているが、そこまで強い精神力を持っているわけではないから、デモをほっぽり出して仲間とふざけたり、友達を見捨てられなかったり、絶望の中でIRAに染まったりする。彼の心にはこのような揺らぎがあるからこそ、感情移入する私たちも心を揺さぶられるのではないでしょうか。
そして!ベッドシーンがありました!というか何回があるロッカールームのシーンで普通に着替えてました!キスシーンも多かったです!!!正直めっちゃキュンキュンしました!
また、今回観劇するまで、小瀧くん以外のキャストさんを存じ上げなかったのですが、個人的には、クリスティン役の豊原江理佳さんがとても印象に残りました。鋼のメンタルなクリスティンらしい堂々とした立ち振舞い、がなりを加えたパワフルな歌声がとても魅力的でした。
その他雑感
また、今回の観劇で、「アイドル」が何らかの作品に出ることの意義をなんとなく感じました。それは、「遠く感じてしまう社会問題を、自分事としてとらえられる」ということです。LGBT、難聴、シベリア抑留、北アイルランド問題…。社会問題として聞いたことはあるけど、内実は全然知らないし、調べようと思ったこともない問題が世の中にはたくさんあります。でも、「推し」を楽しみたいから、作品を観に行く。「推し」のことが大好きだから、嬉しそうな顔を見れば嬉しいし、悲しそうな顔を見れば悲しくて、深く感情移入してしまう。そして、その問題を自分事のように感じる。
世界平和のためには、異質な他者が相互理解し合うことが不可欠です。でも、自分と異質な存在は見えにくく、触れることは結構難しい。そんな中「推し」は、今まで自分が無意識に作っていた領域を軽やかに飛び越えるきっかけをくれます。それは、新しい音楽のジャンルや芸術のジャンルだったり、マイナーな趣味の世界だったり、今回であれば、様々な社会問題であったりします。そうやって、今まで自分にとって未知だった何かと出会い、理解するきっかけをくれるのです。特にジャニーズは引っ張りだこなので色んなところに連れて行ってくれて、面白いです。
そんなこんなで、私は、誰かを「推す」ことは、世界平和につながると言いたいのです。私的に誰かひとりを愛することが、未知で異質なものの面白さに触れ、広い世界と接続され、世界そのものを肯定することに繋がっていく。勿論アイドルの舞台は全部が全部こうではないし、ファンの感じ方も人それぞれだと思いますが、私にとって、アイドルは、そんな可能性をはらんだワクワクする存在です。
あと、私は、観劇後に、あの雰囲気をもう一度思い出したい!ってなることが多いのですが、いかんせん舞台は映画やドラマと違って円盤化や配信とは縁遠いジャンルです。そのため、数少ない映像は大切に保存するべきだなぁと思いました。今回でいうと、『ピーチケパーチケ』で舞台映像が少し放送されていたので、録画しておくと吉です。ちなみに私は間違えて消してしまいました。大ショック。