クールジャパン機構に思うこと
日経新聞でクールジャパン機構の記事を読みました。2013年の機構発足から10年。現在では累積赤字が309億円にも達しているようですね。「日本のアニメや漫画、ファッション、和食などは海外にファンも多く、観光や留学への波及効果も大きい。ぜひ育てたい分野だが、問題はそのやり方だ」。そして「ぼやけていた投資目的」「すでにある日本ブランドへの慢心」「クールジャパン機構の定義や役割が曖昧で投資先は無定見ともとれる」などを原因として挙げています(日経新聞1月16日)。
2015年だったと思います。ちょうど日本茶を北米市場に輸出するプロジェクトをやっていて、クライアントさんと六本木ヒルズのクールジャパン機構を訪ねました。あまり詳しいことは書けませんが、「既に確立しているスイーツ用の抹茶などではなく、煎茶・緑茶をどのように米国人の食生活に溶け込ませるか」というプロジェクトでした。当時、既に伊藤園さんがPETボトルの「おーい、お茶」を北米で成功させていました。その前提で、僕たちは全く別の戦略を描いていました。結局、クールジャパン機構には頼らず、僕たちは自力での進出を選びました。
当時、クールジャパン側の担当者さんは親身になってアドバイスをくれた覚えです。同時にクールジャパン機構の役割も教えてくれました。「投資と回収」。一言で云うとこれが彼らのスキームであり目的でした。税金を使って日本を売り込む「事業」である以上、当然のことでした。しかしそんなクールジャパン機構が上記のような状況にある。ひょっとすると投資に必要な「選択眼」が欠落していたのではと思います。世の中には「雑プロジェクト」とでもいうべき「モノにならない事業アイデア」が溢れています。それに投資をしても回収はおぼつかない。日経新聞にある「投資先は無定見ともとれる」はそれを示しているように思いました。
それにしても日本ブランド(文化)を世界に広げるのは、依然、意義のある仕事だと思います。特にいまのように分断が言われるご時世では、日本人の「和の文化」やその精神性を製品サービスという媒体に乗せて紹介することは大事だと思います。実はクールジャパンという発想には先行事例があって、まずは80年代レーガン政権下で行われた「アメリカ文化の輸出」でしょう。「ハリウッド映画が世界市場でヒットすれば、必然的にアメリカ製品も売れる」というものですね。そして90年代後半ブレア政権の下で行われた英国の「クール・ブリタニア」。おそらくクールジャパンというネーミングはここから来たのでしょう。こちらは英国の若者による音楽、アート、ファッションの新潮流を世界に売り出すもので、それまで英国が持っていた「老大国イメージ」を払拭、経済的な成果をもたらしました。これらは国家が戦略的な意図をもって取り組んだマーケティングそのものです。僕が思うに「クールジャパン」というコンセプトは良かった。しかしオペレーションなどやり方はまずかったかもしれない。財務省は2022年夏に「(クールジャパン機構の)成果が上がらなければ統廃合を検討する」と通告していますが、悪かったところは真摯に改め、日本ブランドや文化の浸透は続けて欲しいものです。