あらたな戦略やビジョンを描くような抽象度の高い課題
新たに事業部長になったような人の最初の課題はこれだと思います。特に目の前に難解な問題があるなら尚更で、そのソリューションとして組織に示すものが将来戦略でありビジョンです。経営陣からもそれを求められていることもあるし、部下もそれを期待して見ていることもあります。一方で将来の戦略や新たなビジョンを描くこと自体は問題解決の出口・納品物だというのも大事な理解だと思います。おそらくはそれを求めるに相応しい抽象的で難解な課題があって、どうやって着手したらよいか迷いあぐねているのが現実ではないでしょうか。だからこそ新たな戦略やビジョンが求められる。
MUJIが現在抱えている課題感はその好事例かもしれません。『置かれた環境は厳しい。無印が提言してきたものが、広く世の中に生まれている。サステナビリティやリサイクルなどの考え方だ。「先導してきた無印が次はどうするのか問われている。言い出しっぺが置いて行かれるわけにいかない」。例えば衣料品で競合関係にあるユニクロ。「ライフウェア」というコンセプトの下に資源リサイクルなどサステナビリティの考え方を前面に出すようになり、店舗や商品にもそれを反映させている。インテリア用品ではニトリも環境対応に動く(日経新聞5月1日)』。MUJIのこの問題は、僕自身も随分前から感じていたことだし、これまで分かってはいたいけれど取り組めてこなかった問題なのだろうと思います。それもコーポレイト・ブランドにかかわる競争の問題で、これまでも随分と議題に上ったものに違いない。まさに将来の戦略や新たなビジョンを描くに相応しい課題と思います。ただこの記事を更に読むと業績自体は良いようですね。『4月中旬に発表した2023年9月〜24年2月期決算は好調で、足元の状況は安泰なようにみえる。国内外で積極的に出店し、前年同期比13%の増収となり、営業利益は2.4倍の240億円だった(同5月1日)』。つまり、それほど切羽詰まっているわけではないでしょう。逆に言えば、業績の良さ自体が問題解決を先延ばしにしてきた原因かもしれません。
業績が良いのは実に結構。しかし問題自体はもっと大きく深刻になるでしょう。ここが悩ましいところで、MUJIの記事もそれを伝えているのだと思います。ところで新たな戦略やビジョンを描くこと自体は目的ではなく「手段」だとも言えるでしょうね。往々にして戦略やビジョン自体が目的になりがちですが、そうではないでしょう。目的は課題の解決です。そのためには現状にしっかりと向き合う現実主義者であることが何より重要。状況をよく見てデータを徹底的に分析し、ものごとをギリギリまで単純化して「どうしたらよいか」の核心を掴むこと。これに全力を傾けることが成功への道です。逆にまずいのは問題の本質を捉えず「こうあるべきある」と決めてしまうことでしょうね。これが手段ではなく目的になった状態でしょう。そのように理想主義者になってしまうことは、それ自体が失敗の原因になる。多くの歴史がそれを示しているようです。