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そう簡単に政治家は育成できない

今回、小泉進次郎が失速したのは、あきらかに討論会でのやりとりが原因にある。他の候補が、過去の自身の実績を紐解きながらひとつひとつ丁寧に回答したのに対し、たとえば「年齢が同じだからうまくいく」という、おそらく街頭演説で言えばそれなりに聴衆も楽しむようなコメントも、ここではまったく機能しなかった。

大逆転を果たした高市早苗はその点、たとえば夫婦別姓問題に対しても、「総務省関係でやることができる全ての手続き1142件について、婚姻前の姓で対応できるように変えた」というふうに、具体的数値もあげながら回答した。その高市氏が小泉氏に、「なぜ今まで議員立法などに取り組んでこなかったのか」と問いただしたときの迫力は、なかなかだった。

このやり取りを見ながら、私たちは自民党と野党との間にもその相似形を見ているなと思った。実務的な迫力が、野党にはでない。政治的リアリティがまったく違うわけだ。今回、立憲民主党の代表に野田さんが選ばれたが、野田さんは野党の中で数少ない、政治的リアリティをもって語れる政治家だろう。その野田さんが、どのように自民党と対峙していくか楽しみではあるが、一方で、政治家の層の薄さは隠しようがない。若手でそうした議員がいないからだ。

昨日、シラスの「ゲンロン完全中継チャンネル」で行われた「細野豪志×西田亮介×東浩紀 与党は本当に生まれ変わるのか──自民党総裁選と日本の行方」をアーカイブ視聴した。細野さんによれば、民主党のときには、将来の政権交代を見据えて官僚からの情報提供もあり、また彼らを交えた勉強会も開かれていたそうだ。官僚から民主党の候補として立候補するキャリアもあったという。

しかし、特に2015年の安保法制の議論において共産党と共闘し、言ってみれば非現実的な路線を進み、反アベだけを旗印に活動するなかで、うっかり情報提供するとやられかねないというリスクから官僚も離れてしまった。細野さんは、2017年に民進党を離れ、2021年には自民党に合流する。

小泉進次郎もおそらく、今後、さまざまな政治的奮闘を経ていく中で実績も積み上げ、将来当然内閣総理大臣を担うことになるだろう。自民党には、よくも悪くもそうして政治家を作り上げていく伝統がある。安倍晋三が自民党幹事長にサプライズ人事で就任したのが、49歳のことであった。そこから大臣経験のないなかで、その後、内閣総理大臣を務めることになる。

伝統にもよいものと悪いものがあるように、悪しき伝統もその結果、引き継がれてきたところがあるが、今回の討論などを見ていると、その底力を垣間見た。今回の9人以外にも、裏金問題で処分された、世耕、西村、萩生田などの名前もある。野党が政権交代するには、議員の育成から地道に取り組まざるを得ず、小泉進次郎を笑ってられないと思うのである。

小山龍介
BMIA総合研究所 所長
名古屋商科大学ビジネススクール 教授

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