発信することや、一次情報・ログを大切にする人。 そんなエンジニアと仕事しつづけたい。
第一回目の対談者は、株式会社フィードテイラー 代表の大石 裕一さんです。経営者として、エンジニアが仕事に集中できる労働環境を最優先に考え、営業業務や電話対応・メールの禁止、残業ゼロなどの取り組みを創業時から徹底。エンジニアのパフォーマンスを最大化できる環境を、常に追究されています。
まず面接で確かめるのは、その人が“発信”をしてきたかどうか。
吉永:
大石さんが、記念すべき第一回目のお相手です。blueの技術顧問として採用のサポートをしていただいたり、私自身、大石さんにはとてもお世話になっています。今日も、どうぞよろしくお願いします。
大石さん:(以下、敬称略)
おそれいります。
吉永:
大石さんと一緒に商談に行った帰りなどに、いつもコーヒー屋さんで話していたことなんですけど。あらためて、大石さんにとって“いいエンジニア”ってどんな人だと思いますか?
大石:
一緒に仕事をしたことのある人であれば、仕事への取り組み方を見れば分かるんですけど、そうでない場合もありますよね。面接などで初めてお会いするときの判断基準は、その人自身が"発信"をしているかどうか、です。技術者としてブログやSNSで情報発信をしていたり、セミナーやイベントで講演したり、アプリやソフトウェアを自作していたり。自分から発信をしているエンジニアは、一緒に仕事してみたいなと思います。
吉永:
大石さん自身も発信することを大切にされてますよね。メディアにもたくさん出られてるし、技術講演もされたりとか。
大石:
発信しているものには、その人の想いやオリジナリティが現れると僕は思ってて。1、2時間の面接だけで知ることができる情報って、限られてるじゃないですか。でも、その人が発信している情報やプロダクトがあれば、こういう分野に興味があるんだとか、こういうものをつくりたいんだとか、人となりがちゃんと見えてきます。
吉永:
その人のつくったものから、人となりって見えるものなんですか。
大石:
仕事への探究心がちゃんとあるか、そこから伝わってきます。その人のエンジニアリングへの向き合い方が本気かどうか。これは、僕が正社員を採用するときの判断基準にしています。
問題が起きたとき、“できるエンジニア”は一次情報を読んでいる。
吉永:
じゃあ実際に仕事を一緒にしてきた人のなかでは、 特にいいエンジニアだなって思うのはどんな人ですか?
大石:
一次情報を大切にする人と、ログを大切にする人ですね。
吉永:
一次情報を大切にするっていうのは、どういうことですか?
大石:
製品の提供元、開発元にある、オフィシャルのドキュメントなどをきちんと見る人か、ということです。今ってネットに情報が乱立してるので、開発中になにか問題が起きたときも、検索すればなんとなくの解決方法は手に入るんです。でも、そういう不確かな情報をコピー&ペーストして満足するのではなく、たとえばWordPressを使っているならWordPressが公開している技術情報とか、iOSアプリ開発ならAppleが技術者向けに用意しているドキュメントとか、そういった一次情報の中から答えを探して、問題解決していくエンジニア。うわさ話を信じていない人の方が信頼できる、っていうのと同じです。
吉永:
なるほど、それ以上の確たる情報ってないですもんね。そもそものミスも起こりにくくなるし、手戻りも少なくなる。
大石:
そうそう、結果的に効率も上がるんです。でも、そういう一次情報ってほとんどが英語なので、そこで諦めてしまう人も多いんじゃないかなと。技術が好きで、探究心があるからこそ、一次情報を解読しようとすることまでたどり着く。本気でエンジニアリングが好きじゃないとできないと思います。
いいエンジニア同士、ログを通じて対話している。
吉永:
ログを大切にする、ということについてもお聞きしたいです。
大石:
ログっていうのは、なんらかの問題が発生した時に、「こういう理由で今エラーが出てます」「画面が真っ白になってます」とか、「こういうことだからサーバーが起動できません」とか、使っている人に教えてくれる記録や情報のことです。人って、なにかトラブルが起こった時こそ、人となりが出やすいじゃないですか。焦って、「WordPress 画面 真っ白」とかで検索して解決しようとする人が多い。でもそうじゃなくて、開発した人自身が出してくれたヒントであるログをきちんと見て、落ち着いて問題解決しようとする人は、とてもいいエンジニアだなと思います。
吉永:
ログに関しても、もともとある情報をきちんと確認して、それをもとに問題解決をしていくことが大切だと。
大石:
開発する側に立ったときも、どういったログを書くかというところに人となりが影響してきます。将来、そのプログラムを使う人のことを考えられているかどうか。なにか問題が発生した時のために、調査しやすいログを書いていたりするのを見ると、「できる人だな」と思います。
吉永:
開発する側と活用する側で、いいエンジニア同士が、ログを通して自然に対話しているような感覚ですね。
大石:
そうです。僕は、エンジニアがどの言語をやってきたかとか、キャリアが何年とか聞くのはあんまり興味ないんです。それよりも、一緒に仕事をしてるときに、一次情報やログをもとにして説明や報告をしてくれる人がいい。ここを大切にしてる人とは、ずっと一緒にやっていきたいです。
一人だけで集中できる環境で、“ゾーン”に入る。
吉永:
そういうエンジニアから、大石さん自身が学ぶこととか、発見はありますか?
大石:
うちは毎日、終業の30分前にミーティングを始めて、その日何をしたかなど報告をし合っていて。エンジニアたちのアウトプットの中から、自分自身が勉強になることは毎日のようにあります。
吉永:
毎日、30分もミーティングしてるんですか。
大石:
終業前に仕事の手を止めて、残業をゼロにするためでもあるんですけど、ミーティングの最後に、1日の中で得た発見や気づきを、一人ひとりが話して共有しています。技術的なニュースとか、ドキュメントで新しい情報を見つけたとか、毎日必ず何かしらのアウトプットをしてもらうようにしています。
吉永:
なるほど。お互いに知識を分け合える環境をつくられているんですね。エンジニアにとってのいい環境って、ほかにはどんなものがあると思いますか?
大石:
エンジニアリングだけに集中することができる環境ですね。うちは、朝のミーティング終了後の9時15分から、夕方のミーティングが始まる5時半まで、ずっと一人だけの空間で仕事に集中できる状態にしています。
吉永:
すごいですね。僕はどちらかというと、ときどき外に出たくなっちゃう方なんですけど……。エンジニアって、没頭するタイプの方が多いんですか?
大石:
エンジニア的には、ずっと定点で集中できる、外と遮断された空間があった方が気持ちいい。その環境があれば、スポーツでいう"ゾーンに入る"ことができるというか。だからうちは営業がいないのかもしれないです。集中の妨げになるので電話も置いてないですし、メールの返信も禁止にしてます。
吉永:
小さいことでも、あれしなきゃこれしなきゃというのが頭にあると集中できないから、一人で黙々と集中できる環境が大事なんですね。本当にエンジニアリングが好きじゃないとできないと思います。
大石:
ノイズが入らない環境というか。余計な業務が入ると集中が途切れて手が止まって、生産性も下がってしまうんですよね。決められた時間の中でぐっと仕事に集中して、ミーティングで情報共有して、全員が定時で帰る。それはずっと大事にしています。
吉永:
時間いっぱい集中できるからこそ、経験値もスピードも上がるし、会社としての生産性も上がるし、結果的にみんながハッピーになりますね。
「できません」は、こちらの負け。
吉永:
いいエンジニアの共通点って、なんでしょうね。エンジニアってアーティストとは違うじゃないですか。自分の中にあるものを表現するのではなくて、お客様の話を聞いて、それをどう形にしていくのか考えていく。
大石:
自分の技術力で、お客様の課題を解決することがエンジニアの仕事です。だから、「できません」という返事をしてしまったら、そこで負け。きちんと掘り下げて、どう解決していくべきか考えることが大事だと思います。
吉永:
人を知ろう、関わりを持とうという姿勢がないと。その人の力を借りたいと思って声をかけても、「できません」って言われたらそこで終わってしまいますね。
大石:
そうなんです。お客様から「どうしたらいいですか」「こうしたいんです」って相談されるということは、悩んだり困ったりしているからだと思います。それなのに、きちんと聞き取らず、YESかNOだけで答えてしまうのは、誠実じゃないなって。考えたうえで、こういう技術を使えば解決できますよ、と提案できる人がいいです。
吉永:
あと、個人的にいいエンジニアに共通してるなと思うのは、実務経験が長くても"自分はできるぜ"というスタンスじゃないこと。今の技術に満足せずに勉強して、提案に活かすというか。経験を積んで、いろんな局面を乗り越えてきた人って、自分以外の人を頼ったり、協力することで仕事が成立することを理解している。だからこそ、傲慢な態度を取ることなく、粛々と仕事に向き合っていくことができるんだと思います。
大石:
吉永さんの言う通り、あんまり自分の技術に満足しすぎない方がいいですね。きっと、自分以上に突きつめている人はいくらでもいますので。いつまでも追究し続けるエンジニアであってほしいです。
エンジニアは、新しい働き方の最前線を走る。
吉永:
Webの仕事が広がったのは、ここ20年のことですよね。たとえば建築の世界だったら、何百年の歴史があって、もうすでに完成されている。でもWebは未完成で、これからもいろんな言語が出てくると思うし、まだまだ新しいものを生み出せると思うんです。今のエンジニアの仕事の幅が1だとすれば、この先10以上まで広がっていく気がしています。
大石:
そうですね。あとは、新しい働き方の最前線を走っているのもエンジニアなんじゃないかと思います。リモートワークやワーケーションが広がったり、副業したりとか、今はいろんなかたちがありますが。そういう仕事のスタイルにも適応できる業界だから、どんどん働き方が多様化していくのを見ることができるのも、面白いポイントです。
吉永:
極端に言えば、河原なんかでも仕事できたり。そういう点にもすごくパワーを感じるし、エンジニアという仕事は、時代が変わっていっても求め続けられると思います。
大石:
僕もそう思います。積極的に発信してる人、一次情報・ログを大切にできる人がいいエンジニアだと僕は言いましたが、人によって考え方は違うとも思っていて。エンジニアの皆さん自身が、いいエンジニアとは何なのか、そこを考えて動いていくことが大切だと思います。
吉永:
大石さん、今日もたくさんお話を聞かせていただいてありがとうございました。また近いうちに、コーヒー飲みながらお話ししたいですね。
大石:
こちらこそ、ありがとうございました。またコーヒー屋さん行きましょう。僕自身も、このメディアで他の方のお話が読めるのが楽しみです。