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映画『最後の乗客』

辛い思いをした日を " 特別な日 " にしたくない あの日を体験した者しかわからず、かつ体験者にしか言えないのかもしれないこの視点が貫かれているから、コピーに書かれたような「感動のヒューマン・ミステリー」というだけの作品にはなっていないと思った。 55分の上映時間。観る前は特別に感じていたけれど、終わってみれば2時間を超える映画と何ら変わらない印象で、時間の長短は表現の質とは関係ないことがわかる。しかし、作品の質を決定する要素のひとつではあったと思う。この映画においてのそれ

映画『侍タイムスリッパー 』

ご多分に漏れず、『カメラを止めるな!』の再現…のふれ込みが目にとまり、気になったので観に行った。鑑賞後の衝撃と感動は、まったく前情報を入れずに観たこともあって『カメ止め』のほうが上回るけれど、ストレートな映画の楽しさを感じられたのは『侍タイムスリッパー』が勝る。 自主制作、低予算などのネガティヴ要素さえも、映画の魅力のひとつとしか思えない。スクリーンから製作者の情熱がこれだけ伝わる映画にはそうそう出会えない。パンフレットの安田監督による感動的な手記を読むと、その理由がよくわ

映画『Cloud クラウド』

黒沢清の監督作でお気に入りなのは、順不同で『CURE』『回路』『ドッペルゲンガー』『叫』。『Cloud クラウド』は、僕にとってはこれらの作品のどれとも異なるわかりやすさで、変な表現だが、最後まで安心して楽しむことができた。 前半から後半への鮮やかな展開。ヘヴィな内容に反したテンポの軽やかさ。狂っている人たちが普通に描かれる異様さ。スクリーンから目が離せなくなる構成と演出は見事だ。 登場人物の誰ひとりにも感情移入できないのだが、奥平大兼が演じる佐野の、ある意味でヒーローぶ

映画『スオミの話をしよう』

三谷幸喜が公言していたとおり、長澤まさみの魅力にあふれる作品だった。しかし、長澤まさみの魅力と言っても、それは人によって異なるのは当然。だから、この映画は、あくまでも三谷監督にとっての長澤まさみの魅力であり、それを僕自身が楽しむことができるか否かである。結果は前者。5人の夫の描き分けと脇を固めるキャストも楽しく、すべての登場人物が印象的だった。 話題にもなっている長回し撮影も含めて舞台的な映画と言うのは簡単だけれど、その効果をどう感じるかがポイント。僕自身は違和感なく鑑賞で

映画『ラストソング』

神保町シアターで開催されている『一度はスクリーンで観ておきたい-忘れられない90年代映画たち』という楽しい企画(2024年6月29日(土)~8月2日(金))。しかも、何らかの事情で映像作品(DVD、Blu-lay)化もされず、配信もされない作品を中心にセレクトとのこと。その中に『ラストソング』のタイトルを見つけたので観に行った。 本木雅弘と吉岡秀隆のW主演。監督は『北の国から』シリーズの杉田成道。博多から上京するロック・バンドが描かれるという設定もあり、以前から観たかった映

『男はつらいよ 50 お帰り 寅さん シネマ・コンサート 特別公演 東京国際フォーラム ホールA 2024.06.29.

シネマ・コンサートは、映画のセリフや効果音はそのままに、音楽パートをオーケストラが映画本編(全編)上映に合わせて生演奏するもので、映画をライブ感覚で楽しめるエンターテインメント…らしい。要するに、映画の音楽パートのみが生演奏ということだ。それは映画なのか、それともコンサートなのか。アタマでは理解できるが、実際に体験するまではなかなか想像しにくい企画だったが、結論としては、映画としてもコンサートとしても、とても楽しめた。 公演は2部構成。まず、第1部は山田洋次監督と倍賞千恵子

映画『朽ちないサクラ』

映画『楽園』で注目度が俄然あがり、昨年の『市子』でぶっ飛ばされ、そして終わったばかりのドラマ『アンメット ある脳外科医の日記』で個人的興味が最高潮に高まり深まった杉咲花が主演。さらに " 警察 × サスペンス × ミステリー " というコピーには僕の好物が並んでいる。いつも通り劇場で予告編にふれただけの事前情報を持って足を運んだ。 鑑賞後の感想は、よくこれだけの内容を2時間で上手くまとめたなと思った反面、とても2時間じゃ足りないとも。しかし、これ以上長くすれば誰もが納得でき

映画『碁盤斬り』

新作の映画は事前情報をほとんど入れないで観る。主要キャスト以外の出演者や監督も知らずに観ることもある。もちろんチョイスする基準は " 好きな俳優や監督の作品 " として選ぶことが多いのだけれど、それでも僕の姿勢としては、なるべく真っ新で臨むことである。 しかし、『碁盤切り』は僕の思いどおりにはいかなかった。意識して避ければよかった…のだけれど、草彅剛が出演したプロモーションを兼ねたテレビ番組をいくつか観てしまったのだ。しかも、そこでの草彅のハイテンション振りが、映画に対して

映画『トノバン 音楽家 加藤和彦とその時代』

本人の発言やレア物も含めたな映像に関係者の証言を絡めたドキュメンタリーだと思っていたが、逆に本人以外のコメントで加藤和彦像を浮かび上がらせる構成だった。けれども、僕には合っていた。様々な証言者視点から語られたことが、結果的に僕自身が持っていた加藤和彦像の空欄を埋めてくれたからだ。そもそも監督の相原裕美に映画企画のきっかけを与えたのが高橋幸宏ということだし、いわゆるヨーロッパ三部作がクライマックスに置かれた構成は必然だったような気もするが、まさにそこが僕の中で抜けていたトノバン

映画『青春18×2 君へと続く道』

清原果耶の演技に惹かれ、興味を持ったきっかけが『宇宙でいちばんあかるい屋根』だった。監督は藤井道人。『青春18×2 君へと続く道』は、同じ藤井監督で清原果耶が主演。公開初日の舞台挨拶生中継付を鑑賞した。 舞台挨拶の様子から得られた情報はともかく、台湾と日本との共同プロジェクトということを含め、事前の情報は仕入れず、" 清原果耶が主演 " という、ただこのことだけを抱えて足を運んだ。 清原果耶とともにダブル主演をつとめたのがシュー・グァンハンではなく、日本の俳優だったら、映

映画『リトル・リチャード:アイ・アム・エヴリシング』

" よくこれだけの量のちゃんとした記録映像が残っていたものだ " 近田春夫のコメント通り、リトル・リチャードの音楽的な凄さを実際の映像で確認できる。僕にとってはポール・マッカートニーがビートルズで歌っている「のっぽのサリー」のオリジナル歌手という認識からスタートした人だが、これまで熱心に聴いてきたとはとても言えないから、こうした映画の公開はとてもうれしい。 もちろん、曲やヴォーカル・スタイルといった音楽自体の素晴らしさを感じて、ふれることができたが、それと共にあらゆる面で

佐野元春 & THE COYOTE BAND ライブ・フィルム『今、何処 TOUR 2023.09.03. 東京国際フォーラム』一夜限りのプレミア上映 新宿バルト9 2024.03.05.

昨年におこなわれた『今、何処 TOUR』の東京国際フォーラム公演を収録した映像作品の一夜限りのプレミア上映が全国7都市の映画館で開催された。そのうちの新宿バルト9では、上映前に佐野元春と高桑圭、深沼元昭が登壇するトークショーがあるとのことで足を運んだ。 ライヴが映像作品になるとギャップを感じることが多い。自分が良いと思ったライヴほどその傾向は大きい。当たり前だが、作品にはアーティストの意向が入るし、かつ監督の視点で作られるわけだから、客席で観て感じた僕自身の中に残ったものと