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八重子
2023年7月6日 20:49
長いテーブルには、ビロードのクロスがかけられ豪華な食事が並んでいる。豪華な衣装に身を包んだ男女がテーブルを囲うように座っていた。その中でも最も目を引くのは、テーブルの真ん中に横たわる若い女の姿だった。美しく化粧を施され、瞳は聡明な青で塗られ、唇には紅が引かれている。頬は桜色に上気している。静かに目を閉じているが、胸が微かに上下するのが見て取れる。絹糸のような髪は艶やな黒で、その黒さが、陶器のよ
2023年7月8日 01:13
子供の頃、河原の近くの空き地がもっぱらの遊び場だった。キャッチボールをしたり鬼ごっこをしているうちは可愛げもあったように思うが、ある日を境に、河原近くの空き地であるものを探すようになった。雨ざらしのボロボロになったポルノ雑誌だ。青年向けの漫画雑誌もあった。裸の女が見たこともない表情をしていた。大人になったらじぶんもこういうことをするんだと漠然と考えていた。タバコの煙を見ながら、ませた子
2023年7月26日 23:05
夫がいなくなってちょうど2年経った。死別ではない。今もあの男はのうのうと生きているのだろうが、私はもうかつての夫を思い出したくなかった。離婚を切り出されたのも蝉の声が煩わしい夏の日だった。他に好きな人ができたからと言っていた。夫は高校教師をしていた。相手はその教え子だという。おぞましい。30も過ぎた男が何を言っているのだろう。たったそれだけで、私の元夫への信頼感も愛情もなくなった。
2023年7月5日 22:03
4階の東北の部屋は幽霊が出るともっぱらの噂だった。幽霊を見るのは決まって若い男で、女や老人や子供は幽霊を見たというものはいない。それも入院患者だけでなく付き添いの人間や、医師や看護士までもが幽霊の話をするのだ。幽霊を見たのは皆若い男であった。最初に幽霊に出会ったのは、3年ほど前にこの部屋に入院していた、30ほどの女性の弟だった。誰もいない病室に女性がいて、窓辺に立っての外を見ていたという。
2023年7月3日 18:45
高校2年生の頃に、教育実習でやってきた先生に運命を感じた。今日の占いで出会い運は最高だって言っていた。この人は運命の人に違いないと私の直感が告げていた。教育実習の期間は限られている。だから私はなんとしてでも先生と距離を縮めなければならなかった。彼女はいない。先生は確かにそう言ったけど、本当のところはわからない。でも、いたっていいんだ。だって、別れて私と一緒になってくれればいいんだもの。それ
2023年5月10日 20:36
失業保険が振り込まれていた。勤めていた頃の給料には当然見劣りするが、贅沢をしなければ、食べていけない額ではない。とはいえ、生活にかかる家賃やら、光熱費の支払いもある。なるべく早くに次の仕事を探さなければならなかった。年度末で新卒から8年勤めた会社を辞めた。上司のセクハラに悩んでの退社で、当然、会社都合だ。実家に帰るという選択肢はない。会社を辞めると実家に連絡したが、あんな大手辞めるなんて…ま
2022年8月16日 20:49
待ち合わせ場所の新宿西口交番の前に着いた。相手はまだ来ていないようだ。スマホにはLINEの通知が来ていて、大江戸線の新宿駅に着いたとメッセージが来ていた。大江戸線はここから少し遠いが10分はかからないだろう。ここはいつも鳩が多い。割と肥えてるやつが多くて、人を怖がる気配がない。ここの鳩はなんだかふてぶてしい気がする。そうこうするうちの兄がやってきた。「待たせたな」「いや、今来たところ」兄
2022年8月14日 01:22
首を絞めると膣が締まると聞いたことがある。何でそんなことを知ったのかは忘れてしまったが、そういう性癖の人間が存在することは、なんとなく知っていた。首を絞めてみたいなどと、強く願ったことはないはずだが、不思議と恐怖心や嫌悪感は抱かなかった。実のところ、自分にもそういう欲望があるからだろう。女の白く細い首に両手を添えて、親指に力を入れた。あくまでこれは合意の上のプレイなのだ。それでも力を入れすぎ
2022年8月13日 02:44
薄手とはいえ長袖のトレンチコートでは、まだ暑すぎる季節。コートの下には縄だけを纏う女が河原に佇んでいた。西の空にはまだ太陽が残って、景色が赤く染まっていく。サッカーのユニフォームのまま自転車を漕ぐ子供とすれ違ったが、子供は全く女のことを気にかけることなく通り過ぎた。買い物袋を両手に下げて子供に何か言っている母親も、塾帰りのような学生も、誰も女に目もくれない。足元に何やら生き物の気配を感じ、