パックラフトの「スイスイ」を生む3要素 その②重心位置
【前回おさらい】
前回はまず、新型NimbusAirの性能紹介を前提とし、パックラフトがスイスイ進むために重要となる、「スイスイ3要素」を紹介しました。
【スイスイ3要素】 ①舟の形状 ②重心位置 ③漕ぎ方
そして、①形状について一通り解説し、新型NimbusAirの特徴について以下の様にまとめました。
詳しくは、前回記事を参照ください。
前回は非常にマニアックで、いろんな意見が…
(でも、コメントいただいた皆さんありがとう。何も言われないのが一番さみしいから笑)
しかし今回は、多くのパックラフターにとって、実感とリンクする、もっと身近な内容になると思います。
というわけで、今回は、【スイスイ3要素】の②重心位置について解説していきたいと思います!
【スイスイ3要素②重心位置】
改めまして、今回は、【スイスイ3要素】から、直進性を生み出す②重心位置について解説します。
さて、今回は結論からいきます!
重心は舟の中心がベスト!!!
「重心が舟の中心」にある場合、舟は「水平」に浮かんだ状態になります。
舟にとって水平であることは、直進性も含め、最も理想的な状態です。
新型NimbusAirは、理想となる水平状態にしやすい設計が特徴となっています!
詳しくは最後にまとめます。
(なお、船舶用語ではこの傾きのことを「トリム」といい、ほとんどの舟では水平の状態であるイーブントリムが適正とされています)
〇舟は水平が基本
さてさて、あらゆる舟(船)を想像しましょう。
カヌーもカヤックも、そもそも人が乗っても重心が中央にあり、水平に浮かぶようにできています。
ヨットも漁船もフェリーもタンカーも、傾いたまま進んでいる舟はありません。
それはなぜか。
舟が傾いていると、スピードが遅く、操作性が悪く、多くの無駄なエネルギーを費やし、安定性も低い…と、何一つ良いことがないからです。
だから本来、舟が水平であることは大前提として設計がなされています。
(タンカーなどでは、荷物の荷重の偏りに応じて、海水を注入するなどして水平を保つシステムもあります。)
では、なぜ重心や水平について取り上げる必要があるのか?
それは、パックラフトというものが水平でない(重心が中心でない)状態で使われがちだからです。
その理由としては…
パックラフトが上述のような様々な船とは違った前提に立って設計されていたり、荷物の載せ方(運用)の影響などが挙げられます。
前回記事の冒頭で、②重心位置は設計と運用の両方にまたがった要素という説明をしました。
今回は…
パックラフトそれぞれの設計の特徴と、それに応じた理想的な運用をする方法を見ていきます。
両者の関係を理解すれば、よりスイスイ進むにはどうしたらよいのか、が見えてくると思います。
キーワードは…
設計面では「シート位置」、運用面では「重量のトータルバランス」です。
〇用途タイプ別の設計と運用
パックラフトを用途別にザックリ分けると主に…
・静水向き(以下、CW:calm water)
・ホワイトウォーター向き(以下、WW:white water)
の2種類に分けることができます。
もちろん、どのモデルで何をやっても自由だということは、ここに強調しておきます。
両者の簡単な見分け方としては、キーワードの「シート位置」の違いです。
単純化すれば、シートが中央寄りか、後ろ寄りか、という分け方になります。
パックラフトは非常に軽量なため、荷物がなければ、ほぼ人の体重の位置(シート位置)が重心ということになります。
つまり…
「シート位置」≒「重心位置」 です。
では、その違いについてみてみましょう。
◇CWの特徴:後ろ寄りのシート位置
静水向きタイプは、パックラフトのルーツの流れを汲んだ、クラシックなタイプということもできると思います。
その特徴は、舟の後方寄りのシート位置です。
(最近は必ずしも後方でないものも)
バウにある程度の荷物を載せることを前提とした設計となっていて、逆に荷物がなければ後方に重心があるため、やや後方に傾いた状態になるモデルが少なくありません。
これはある意味で、水平が最適という船の常識から逸脱したともいえる設計上の特徴です。
舟が傾くことはデメリットでしかない、ということは上述しました。
では、具体的にはどんな問題が出てくるのでしょうか?
その問題を考える前提として、パドリングの時にどんな力が働いているかを見てみましょう。
パドリングは、舟の横に力を加えるため、漕ぐ力は常に回転する力(モーメント)となります。そして、舟の喫水下の形状から生み出される回転を抑止する力によって、モーメントから取り出された推進力で前に進みます。
「回転を抑止する力」≒「直進性」で、これは「長さ/幅比」と喫水下の深さに依存します。
シーカヤックのような舟では多くのモーメントが推進力に変わり、逆に丸っこい舟では多くは推進力に変わらずモーメントのままです。
さて、少し話を戻して、舟が後傾している場合の問題点を考えます。
直進性の一つの指標である「長さ/幅比」(喫水線)でいうと、バウが浮いた分小さくなります。
しかし、「長さ/幅比」は基本的に、舟が理想的な状態にあるときの直進性の指標なので、実は傾いた時にはあまり意味のある数字ではなくなります。
この時実際に効いてくるのは、舟の後傾によって、回転を抑制する力が後方(重心近く~後方)に集中してしまうことです。
結果として、モーメントを効果的に推進力に変えられず、左右のブレが大きくなります。
動きとしては、後方の重心近くを軸に前が左右に揺れるようなイメージです。
また、後傾して、進行方向に対して舟の底面が立ってくることで、舟底に大きな抵抗が生じつつ、パドエリングの度に水に乗りあがるような上下の動きをするようになります。
そして上下左右のブレが合わさり、舟はパドリングの度に左右にひねり上がるような動きをしながら進むことになります。
例えて言うならば、ただ前に進むためだけのために、昇竜拳を繰り出し続けるようなものでしょうか…(笑)
このブレが大きいほど、漕いだ力の中から、推進力になるはずの力がより多く失われていきます。
こうして後傾状態が、パックラフトがスイスイ進まない大きな原因となってしまうのです。
前稿にも貼りましたが、動画中の旧型の上下左右に大きくブレた動きが、まさにエネルギーのロスが大きな状態です。
では、クラシックなCW系の舟はダメなの?と聞こえてきそうですが、そういうことではありません!
答えは意外と単純で、舟の傾きを解消すればよいのです。
下図のように、バウに荷物を置くことで重心を調整すればよく、むしろ、それを前提とした設計という理解が正しいと言えるでしょう。
ここで、もう一つのキーワード「重量のトータルバランス」がでてきます。
つまり、舟全体としての重心が中央に来るように、荷物の量や位置を調整すればよいのです。
そうすれば、舟が理想的な水平状態になります。
これが、重心位置の運用面である「重量のトータルバランス」の意味です。
舟が直進性を発揮する理想的な状態は、舟が水平で、パドリングの力をモーメントを推進力に変える力(回転を抑制する抵抗)が、重心位置を中心にバランスよく分布しているときなのです。
でも、CW系のパックラフトは、いつも前に大きな荷物を置かきゃいけないって面倒くさいな、と思っちゃう人もいますよね?
でもそれは、メリットと表裏一体なのです。
荷物って一つのザックにまとめていることが多いと思います。
それをバウのチューブ上にドカッと載せて、固定するだけでよい。もしくは、コックピットの前側に余裕があるモデルも多いので、そのスペースにドカッと載せるだけでよいと考えれば、それほど難しい運用ではなく、むしろ楽な場合もあるかもしれません。
特にバイクラフトなんかでは、アドバンテージが大きいと思います。
また、ちょっとややこしい話になりますが、舟全体の重心が中央にある条件の中では、人や荷物はできるだけ重心から離れている方が直進性が高くなります。
逆に、そういう運用ではクイックな動きはできないので、テクニカルな川には向きませんが。
つまり、設計上の特徴を理解し、上手く運用すれば、CW系のほうが向いている対象や活動内容もあるというわけです。
そしてそれは、前稿で述べた、第一にはパックラフトのルーツとなる荒野の冒険だったのだと思います。
日本でそこまでの規模の冒険旅行というのはなかなかできないですし、もう少し気軽な活動を主に想定したモデルの新型NimbusAirでは、あえてCW系の形は採用しませんでした。
しかしながら、CW系のパックラフトが、こうした最適化の果てに生まれたとするならば、やはりアルパカ社は偉大とうなるばかりです。
◇WWの特徴:中央寄りのシート
一方、ホワイトウォーター向きのタイプは、瀬での操作性や安定性を求めてどんどん進化してきたモデルです。
その特徴は、舟の中央寄りのシート位置で、カヤックが明確な理想形といえます。
いかにその形に近づくかという進化が続いてきましたが、アルパカ社のValkyrieV3の登場で、かなりその理想が達成されてきた感じがします。
(重くもなったので、パックラフトの”パック”の部分を犠牲にしていると、個人的には感じてしまいますが)
シート位置(≒重心)が中央寄りに来るよう設定してあるため、荷物がない状態で舟の操作性にとって理想的な状態になります。
まさに、カヤックやカヌーと同じ状態です。
逆に、荷物がある場合には、元々の中央寄りの重心をできるだけ崩さないためには、荷物を分配して配置する必要があります。
ただ、着替えや昼ごはん程度など、人の体重に対して荷物の量が十分小さければ、さほど気にする必要はありません。
(舟が小さいほど影響が大きい)
上の図で示した例は、新型NimbusAirの場合ですが、荷物を前後に分散することで、元々の重心位置を保つことができます。
また、WWモデルには、ジッパーでパックラフト内部をストレージ化しているモデルも多いです。
その場合は、本体チューブ内部でできるだけ中央寄りに荷物を配置することで、「重量のトータルバランス」が保たれ操作性を保ちやすいです。
また、重心位置が下に移動することは、転覆に対する安定性の向上に寄与します。
(重量が増えること自体の操作性の低下はここでは考えない)
ただし、実際問題、常に正確に中央重心となる荷重分散ができるかというと、それはなかなか大変かもしれません。
バウが沈むと瀬での操船が難しくなるので、どちらかといえば前が軽い状態となるよう、ある程度感覚的に分配すれば十分だと思います。
〇各タイプの特徴整理
<CW系:後方シート>
・メリット 前に余裕。大きな荷物も載せやすい。バランスをとれば高い直進性を発揮。舟がコンパクトに設計しやすい。
・デメリット 荷物がないと重心が後方なので、後傾して操作性が落ちがち。
<WW系:中央シート>
・メリット もともと重心が中央なので荷物無しでも操作性が高い。
・デメリット 荷物の量が多いと、バランスよく前後に振り分けるなどの工夫が必要。大きな荷物が載せにくい。舟が大きくなりがち。
〇新型Nimbusの場合
では、最後に新型NimbusAirの重心位置をご紹介します。
設計:WW系の形状を採用した中央重心
・用途はCW向きとしつつ、荷物が少なくても水平でスイスイ進む重心設計。
運用:荷物は前後に分散が理想
・荷物は分散して中央重心を保つ(小さければさほど気にしなくてもOK)
・ひと塊が大きな荷物は載せにくい(日本のツーリングでは大きな問題にならない)
話の流れとしては、WW系かCW系か、という解説をずっとしてきました。
しかし、実は新型NimbusAirの本来の理想は、WW系の形を作ることより、いったん原理原則に立ち返り、オーソドックスな舟の理想に近いパックラフトを作ることでした。
そしてその中で、前稿でも述べた、日本人・日本の環境によりフィットした、ミニマムで高性能なパックラフトを目指した設計となっています。
〇本稿まとめ
舟がスイスイ進むためには、舟が「水平」であることが理想。
⇒ 舟が水平=舟全体での重心位置が中央
荷物が少ないとき:重心位置≒人の位置
荷物が多いとき:重心位置=人の位置+荷物の配分
「設計」による、そもそもの重心位置を理解し、
それに応じた荷物の配分で重心位置を舟の中央に近づける「運用」によって…舟の直進性能は活かされる!
つまり、よりスイスイ進む!
また長くなってしまいましたww
やっぱり物事をコンパクトにまとめるのが苦手みたいです…😅
まあでも、何とか②重心位置も書き終えました。
文章力の練習もかねて、今後も地道に続けていきたいと思います。
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【スイスイ3要素】がまだあと一つ残っているので、そこまでは頑張りますが…
今後は、話題の選定も工夫し、もう少しコンパクトにしていきたいと思います(笑)