「完全アウェー」が主戦場


(動画を拝借します。)



自分がダンサーとしてやっていくと親に伝えた時

先の記事に書いたとおり

「芸術家になるなら学校なんか行くんじゃない」

それともう一つ

「海外留学もさせてあげられなくてゴメン」

親に言われたことはこの2つである。






自分は日本だろうが海外だろうが

ダンスをやる国については一切こだわりがなかった。

ダンスを観る客にとっては

文化の違いはあれど

「エキサイティングするかどうか、面白いかどうか」

それは世界共通だ

そう、自分は最初から思っていたからである。






場所については自分なりに信念があって

「ホームかアウェーかなら、迷わずアウェーに行く」

これだけは現役中一貫していた。

理由は「アウェーでこそ真価が問われるから」

それは確信していたので

同日にダンスイベントとアウェーのイベントがあれば

迷わずアウェーを選び

およそダンサーの披露の場とは思えないような


・バカデカい野外イベント・野外フェス
・小汚いライブハウス
・駅前ストリートでのゲリラ
・美術館・展示場
・洒落たダイニングバー・レストラン・カフェ


などによく出演させてもらっていた。


特に、美術館と展示場は最高に面白くて

還暦近くの書道・華道の大先生から

陶芸・キルト・絵画・水墨画の出展者の皆さん

ただ美術館めぐりを楽しんでいるお客さん

旅行で観光していた外国人

たまたまそこにいたちびっこ達  と

一カ所に全年代の人間が集中していて

元々は誰1人ダンスを観るためにそこにいるわけではないという

「完全アウェー」

面白ければずっと魅入るし

面白くなければすぐにそっぽ向く

身内びいきやダンサー同士のひいき目なんか一切ない

「真価が問われる魅せ場」であった。







よく

「ダンスのことを知らない人にはわかりやすいように作品作るんでしょ?」

みたいなことを聞かれていたけれど

それは真逆で

「ダンスのことを知らないからこそ一切手抜きが出来ない」のである。

インストラクターとしてダンスを教えるのであれば

わかりやすいように出来るだけ理解しやすいように伝える必要はある。

でも、自分がダンスを披露する場面では

インストラクターではなく、アーティストである。

ミュージシャンでも同じだと思うけれど

自分みたいに楽器が演奏できない人間に合わせて楽曲を作る人間など

一人もいないと思う。

観る人間に合わせて作品を作るというのは客に媚びる行為と同じで

客の受け取り方としてそれを「ナメられてる」と受け取る人間もいる。

なので、どんな客であろうが媚びることなく

「自分のダンス」を魅せる必要が出てくる。

また、

同じダンスをやっている人間同士なら

「あーこういう表現がしたいんだろうな」とダンス経験からわかる感覚が

一般のお客さんには一切通用しなかったりする。

「中途半端で曖昧な表現」に対してはとことん辛辣な態度を取られる。

表現方法として

「具体的な表現」と「抽象的な表現」と大まかに2種類あるけれど

いずれにせよ「ハッキリとした表現」が絶対に必要となってくる。

だから、自分の経験の中では

ダンスの難易度を自ら落としてまで作品を作ったことは一度もなく

アウェーでの場であればあるほど

「ハッキリと表現すること」だけは忘れなかった。

そうでなければ、何も伝わらない。





「絶対の自信がある時の振付は、必ずぶっちぎる」

「期待していなかったものが遥かにいいものであったとき
 人は黙る。
 そして一瞬の沈黙のあと、それが大きな歓喜に変わる。」

そして

「どんなお客さんだろうが、いいモノにはエキサイティングする」



自分はこのことを「完全アウェー」でしょっちゅう経験していた。

自分はテレビに出るようなダンサーではなかったので

元々ダンサーとして自分を知っている人間は少なかった。

本当にごくごく数人の熱狂的なファンがいたけどその人間を除くと

アウェーの地ではほぼ無名である。

でも、一作品ダンスを披露した後に

一時間前まではただの他人だったお客さんが

興奮しながら一気に自分を取り囲んだりすることがよくあった。

杖をつきながら涙ぐんで「興奮した!」とわざわざ言いに来たおじいちゃん

「心臓のペースメーカーが狂いそうになったわーアンタやるねー」と

ウィットなジョークを飛ばして肩をバシバシ叩いたおばあちゃん

「イイデスネ!イイデスネ!」とニヤニヤしていた外国人旅行客

「おねえちゃんぼくのあげるよー」とわらわら飴玉をくれたちびっこ

「お疲れさまでした。良かった」と言いながら差し入れをくれたおばちゃん

真昼間のお酒がない場所での披露というのは

お客さんもシラフなので反応がかなりリアルに返ってくる。

それが、とても心地よかったりしたし

あまりにもリアルな反応が自分にはしっくりくることが多かった。

一切の贔屓目のない、リアルな反応は

「完全アウェー」でしか味わうことはできない。






一応、ダンス界の専門分野界隈では

「技巧派」として知られてはいたので

持っている 技術力=表現力 は一定の評価を受けつつも

自分は「完全アウェー」のほうが主戦場だったダンサー。

それに加え「音楽が最優先」型という

自分のいたダンス界では

非常に珍しいタイプのダンサーだったのではないかと思う。

ある意味ファーストペンギンであり

ブルーオーシャンに飛び込み続けた

地位と名誉よりも目の前の客のリアルな反応を求め続けた

「表現すること」にどこまでも貪欲だった

一人のダンサーの生き方である。



(動画を拝借します。)




拙い文章お読みいただきありがとうございました。





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