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"追憶を促す青の絵” 〜若狭宣子 水彩画展 『空』 〜 2025/11/8-10


 長野県の朝日村にあるアートギャラリーBLUE HOUSE STUDIOはプレーンな白い壁とむき出しの古民家の小屋組みとの対比が魅力的な空間だ。このギャラリーで「若狭宣子 水彩画展 空」が開催された。

会場に入ると空間が水彩の青で満たされている。大型の作品もあった。
にじみや染みといった水彩の特性が際立った作品


ギャラリー入口の大きな木製の戸を引き開けると、何点もの青い色の絵が目に入ってきた。 ン? 何だろう・・・。抽象的で、何が描かれているのか直ちには解らなかった。

 描画対象をリアルに描くのではなく、再構成することによって表現されている作者だけの絵にぼくは魅せられ、感動する。描く人の感性をきっちり通過して生み出された作品には作者自身が描かれている。ぼくは作品と対峙してそれを読み解き、作者の心模様を知ろうとする。

 本展のメインビジュアルにもなっている作品『空の波 II』は水をたっぷり含ませた絵筆の青色が紙に置かれ、水の作用によってグラデーショナルな広がりになっている。形も定まらず曖昧だ。
 

『空の波II』は右側の作品


ぼくは火の見櫓のある風景をスケッチしているが、風景の中にあるいろいろな要素の形に注目し、それらがフレームの中でどのように構成されているのか理解し、その魅力を表現する。だから、ぼくの場合はまず輪郭線で形を確定的に描き、その後にその形に色を付けるという手順になる。

会場に掲示されていた若狭さんの挨拶文に、「知ろうとし、理解ろうとする気持ちは持ち続けながら、今の時点での知っていることを結論のように絵の中に「こう感じました」と持ち込まないで描きたいと思いました。」という一節があった。なるほど。そうであるなら、表現されるのは確定的な形ではないし、確定的な色でもないのだな、と得心した。

ぼくが描くスケッチとは対極にある展示作品に対する理解が深まると、それらが俄然魅力的になった。絵画鑑賞の醍醐味と書けば大袈裟かもしれないが、そういうことだとぼくは思う。

展示作品の中で、ぼくが強く惹かれたのが『空の波 II』だった。
里山を漂う朝靄、青空を流れる雲、夏の夜の天の川、海面の航跡・・・。 不確かな形が想起させるイメージは人それぞれだ。

 ぼくはこの絵と対峙して、作者の心模様をみているようで自分の過去の記憶をみていたのだ。印象的な場面が甦り、懐かしく辿ることになった。このことこそ、この絵の魅力だろう。

( 平林勇一 / 建築士&火の見ヤグラー、朝日村)


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