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部屋には静寂が満ちていた。窓の外では冷たい雨が降り続き、わずかな音が彼女の寝息と混ざり合う。ベッドに横たわる彼女の顔は蒼白で、かつての活気ある笑顔がどこか遠くに消え去ってしまったようだった。

「覚えているかい?初めて会った日のことを」
彼は椅子に座り彼女のか細い手をそっと握りながら語りかけた。その手はやけに冷たく、力を失っていた。

「君が笑って言ったんだ、私たちはどこへでも行けるって。あの日からずっと、君と一緒にいるのが僕のすべてだった」
彼は目を伏せ、記憶の断片を手繰り寄せるように語り続けた。出会った日のこと、初めてのデート、プロポーズの言葉、結婚式での誓い…。
彼女は返事をしない。ただ静かに彼の声を聞いているかのように眠り続けている。

「君がいなくなったら、僕はどうしたらいい?」
彼の声は震え、目元に涙が浮かんだ。彼女は微かに目を開けたように見えたがそれは彼の思い込みかもしれなかった。

時間が過ぎるにつれ彼女の呼吸はますます弱々しくなっていった。彼は必死に看病を続ける。毛布をかけなおし、水を口元に運ぶ。しかし、彼女の容態は改善する兆しを見せなかった。

「お願いだ、僕を置いて行かないでくれ」
彼は何度も何度もそう呟いた。
だが、彼女の目はもう何も映さず、彼の言葉も届いているのか分からなかった。
それでも彼は語りかけ続けた。

やがて、彼女の呼吸が完全に止まった。彼は絶望に打ちひしがれ崩れ落ちた。
「…………」


しばらくして彼は顔を上げ涙を拭った。そして引き出しを開け、そこから黒いケーブルを取り出す。それを彼女の背中にある小さなポートに接続した。

『充電開始』

モニターに進捗状況が表示され、冷たかった彼女の体が徐々に温かみを取り戻していく。

『システムチェック完了。バッテリー残量2%、正常稼働確認』

彼女はゆっくりと目を開けた。その瞳に感情はなく均一な光だけが宿っていた。

「次回はバッテリー低下警告を無視しないでください」

彼は無言で頷いた。
部屋の静寂は機械音に満たされる。


終わり


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