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家族団欒

夕焼けがリビングの窓をオレンジ色に染め、柔らかな光が部屋全体を包み込んでいた。ダイニングテーブルの上では湯気の立ち上るカレーの香りが漂い食欲をそそる。

「パパ、おかわり!」
小学一年生の息子が皿を片手に満面の笑みを浮かべて差し出してきた。

「はい、どうぞ。いっぱい食べて大きくなるんだぞ」
僕は笑いながら息子の頭を優しく撫で、たっぷりとカレーをよそって皿を返した。

その横ではエプロン姿の妻が微笑みかけてくる。
「あなたも、おかわりいかがですか?」

「ああ、もらおうかな。美味しいよ、君のカレーは最高だ」そう呟きながら僕は食卓の温もりを噛みしめた。

足元では愛犬が嬉しそうに尻尾を振り僕の方を見上げている。
これ以上ない幸せ──家族みんなが揃って食卓を囲むこの温かい時間。妻と可愛い息子、そして愛らしいペットと過ごすこの瞬間は僕の人生における最高の宝物だった。


食事を終え、リビングでコーヒーを飲んでいるとスマホが軽やかな音を立てて通知を知らせた。

「家族代行サービス+ペットプランが残り1週間で終了します」

その文字を目にした瞬間、僕は手元のカップを持つ動きを止めた。

家族代行サービス──
それは僕がこの幸せな家庭を手にするために利用している代行サービスだった。


本当の僕は40代後半、仕事一筋で家庭を持つことを諦めていた。ある日、何気なく目にした「家族代行サービス」の広告がきっかけだった。

「家族と過ごす温かな時間を体験してみませんか?」

そんなキャッチコピーに惹かれ半信半疑で申し込んだ。サービス内容は至れり尽くせりで、妻役、子供役、ペットまでプロたちが代行してくれるというもの。
最初の頃は戸惑いもあった。お金で得られる「幸せ」がこんなにもリアルなのか、と。けれど、毎日の食卓やさりげない会話、愛犬の仕草が次第に心を癒し始めた。気づけばこの仮初の家庭が僕にとってかけがえのない居場所になっていた。

だが、それもあと1週間で終わる。


継続しようかどうか悩んでいる時、ポケットの中のスマホが振動音を立てた。

「そろそろ帰ってくる?」

嫁からのメッセージだった。

メッセージを見つめながら俺は返信を打ち込んだ。

「『家族代行サービスを利用する中年男性代行サービス』の仕事中だから、今日はまだわからない」

テーブルに置かれたコーヒーカップの中で
微かに揺れる表面が夕焼けの光を受けてきらめいていた。


終わり



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