練武知真第37話『流れを知り、流れを生む為の武術』
武術の攻防には、2つのパートがあります。
一つは「0から1」を生むパート。
例えば戦闘開始時における攻防。
互いに相手の出方を図りながら技を繰り出します。
何もないところから技を発生させるので「0から1」。
或いはカウンター狙いで一撃を当てる戦法も同じかも知れません。
「無から有を生む」攻防とも言えます。
もう一つは「1から2」を生むパート。
これは「0から1」のパートの先、技の応酬に入った時に、動きを停めずに次々と技を繰り出し、相手を制することを目的とした攻防です。
「有から変を生む攻防」とも言えます。
単調になりがちな「0から1」に対して、「1から2」は変化しやすく、勢いをつける事ができます。
技と技の隙間がなく、コンビネーションを使って、戦いを有利な方向へと運んでゆく事ができます。
また「0」から技を発生させる事を繰り返すのは大きな労力を必要としますが、
一度動き出した「1」から次々と数珠繋ぎに技を繰り出すのはコントロール技術さえあればスムーズに実行する事ができます。
停めずに動く。
動き続ける。
方向を変え、強弱をつけ、虚実の転換を巧みに使いながら。
中国武術【八卦掌】は、この「1から2」「有から変を生む」攻防に長じた武術です。
八卦掌は円弧を描くフットワークと龍のようなしなやかな身体運用を特徴とします。
留まる事なく動き続け、舞いのような美しさを有します。
その戦法は、
「動きを停めずに変化し続けることによって相手を制する」
ことにあります。
ですので八卦掌は強引に攻めません。
相手との正面からの衝突を避け、サイドに回り、自分の自由性を確保して戦います。
滞留することなく、「流れ続ける」水のように。
そう。
実はこの『流れ』というものが、「1から2を生む」「有から変を生む」戦術に必要不可欠なのです。
相手の動きの『流れ』を利用しつつ、その隙を突いたり、
自分の『流れ』に相手を巻き込んで、攻防を有利に運んだり。
だから、八卦掌は止まらずに流れ続けるのです。
八卦掌の武器である八卦刀を扱うと、そのコンセプトがより明確になります。
八卦刀は巨大な中国刀です。
サイズも巨大で、相当な重さがあります。
八卦刀を「0から1」つまり「無から有」の使い方をするのは不合理。
体への負荷が大きすぎて戦いどころではなくなります。
ですので、一度動き出したら、できるだけ停めずにコントロールして、動かし続けます。
強力な斬擊を放った際も、急に止めようとすれば体勢を崩してしまうので、そのまま動かして次の動作へと繋げてゆきます。
「停まらない」というよりも、「停められない」と言った方がシックリとくるかも知れません。
流れ続けることによって勝ちを得る刀術なのです。
【参照YouTube動画】
伝統刀術《八卦刀》解説
このような動作を可能にするには、強い体幹力、力みの抜けた自由な四肢、そして、「流れを感じる感性」と、「流れを生み出す心身」が必要となります。
武術において「流れ」を理解する事はとても重要な事なのです。
「流れ」は武術だけではなく、様々なスポーツや身体文化の中にもあります。
また、「場の流れを読む」、「事態の流れを見守る」、「時代の流れを見極める」など、日常における様々な場面で「流れ」の重要性を説く言葉もあります。
私たちは体内を気血が「流れる」ことによって生かされています。
自分の人生も一つの「流れ」と見るならば、
死なない限りは人生の流れは続きます。
否応なく。
時の流れは決して停まることはないのですから。
ならば、自分の人生、
自分にとっての良き「流れ」に導いてゆきたいものです。
【追伸】一見動いていないように見えて、身体内において見えない動き(微細な動きや心や意識や気の動き)を行う「静中動」というものもありますが、それはまた別の機会に。
2024年10月30日 小幡 良祐
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