おばた りょうすけ

プロの中国伝統武術家です。都内などで形意拳や八卦掌という伝統武術や武器術を教えています…

おばた りょうすけ

プロの中国伝統武術家です。都内などで形意拳や八卦掌という伝統武術や武器術を教えています。以前は18年間、茨城県警察科学捜査研究所・法医研究室で鑑定をやっていました。武術修行や科捜研勤務などで得た経験をもとに感じたことなどを書きます。京都出身。茨城大学農学部卒。旺龍堂代表。

最近の記事

練武知真第38話『学び方を学ぶ為の武術』

学びには順序があります。 特に技芸や学問をシッカリと学ぶ為には、ある程度は体系にのっとって基礎をきちんと築く必要があります。   最初から全てが自己流だと、その先、必ず現れるであろう「行き詰まり」や「壁」を突破するのがかなり難しくなります。   技芸や学問は多くの人達による知恵の集積だからです。 時代や世代を越えた熱意ある研鑽の賜物だからです。   一人の人間が積み上げられる経験や知識は大した量ではありません。   多くの人達が積み上げてきたものの上に、さ

    • 練武知真第37話『流れを知り、流れを生む為の武術』

      武術の攻防には、2つのパートがあります。   一つは「0から1」を生むパート。 例えば戦闘開始時における攻防。 互いに相手の出方を図りながら技を繰り出します。 何もないところから技を発生させるので「0から1」。 或いはカウンター狙いで一撃を当てる戦法も同じかも知れません。 「無から有を生む」攻防とも言えます。   もう一つは「1から2」を生むパート。 これは「0から1」のパートの先、技の応酬に入った時に、動きを停めずに次々と技を繰り出し、相手を制することを

      • 練武知真第36話 『内外合一を知る為の武術』

        『内外合一』。 これは中国武術における、ある境地を示すものです。   内功と呼ばれる ・微細な身体操作 ・気のコントロール ・意識の集中やイメージの活用 ・心理状態のコントロール などの修行。   外功と呼ばれる筋骨皮といった肉体のトレーニング。   これらの修行で培った内外を合わせて一つと為すことで、高い武術力を身に付けるという概念が一般的な意味での『内外合一』です。   しかし、この『内外合一』という言葉には実に深い意味があり 「内」を自分と

        • 『剣穂之舞(けんすいのまい)』

          先日、埼玉県熊谷市の古民家で開催されたイベント 「スサノヲ祭り」 において旺龍堂会員の相山さんと創作舞踊 【剣穂之舞】 を披露しました。 - 日本神話の中にある「八岐大蛇(やまたのおろち)」の話を題材にして、二人で一から創り上げました。 - この話は男神「素戔嗚尊(すさのをのみこと)」が、 女神「櫛稲田姫命(くしいなだひめのみこと)」を護って、 八つの頭を持つ巨大な大蛇「八岐大蛇」を相手に剣で戦って、勝利し、 二神が結ばれる・・・という物語。 - き

        練武知真第38話『学び方を学ぶ為の武術』

          練武知真第35話 『虚実を知って前へ進むことを学ぶ為の武術』

          『虚実分明(きょじつぶんめい)』。 形意拳や八卦掌で用いられる武術の重要な要領の一つです。 - これは、 『実』とは、「エネルギー」が入っている場所や状態。 『虚』とは、「エネルギー」が入っていない場所や状態。 便宜上「エネルギー」と記しましたが、 具体的には、「重心」「パワー」「気」「意識」「相手との関係性」など、武術に必要とされるあらゆる要素のことです。 武術においてはこの「虚実」への理解は必要不可欠なものであるということになります。 - では『分明』

          練武知真第35話 『虚実を知って前へ進むことを学ぶ為の武術』

          『豊かさの感じ方』

          【豊かさ】の感覚は人によって様々です。 ですから私が今からお話するのは、あくまで私の最近の【豊かさ】についての考えです。 少し長くなります。 - 人はどうしても今の自分に「無い」ものを欲しがります。 - どうしても「あれ」が欲しい・・・私は持っていないから。 「あれ」というのは、服であったり、車であったり、家であったり、豪華な食事であったり・・・様々でしょう。 それらはごく自然な欲求であるように思えます。 - しかし、それは本当に自分にとって必要不可欠なものでしょうか? それ

          『豊かさの感じ方』

          練武知真第34話 『やろうとしない境地に至る為の武術』

          【技】は武術の本体です。 武術では、各門派の有する【技】の数々を身に付ける為、多くの時間とエネルギーを使って修行します。   各門派における伝承も、実質的には【技】の継承をもって行われることがほとんどです。 もともと「武術」という言葉自体が「武の技術」という意味なので、その物理的本体は【技】という事になります。   しかし修行を続けていると、やがてある事を感じるようになります。 【技】を正確に「やろう」とすればするほど、上手く動けない事に。 学んだ要領を幾度も

          練武知真第34話 『やろうとしない境地に至る為の武術』

          練武知真第33話 『心と体の繋がりを学ぶ為の武術』

          中国伝統武術である【形意拳】や【八卦掌】は、「内家拳(ないかけん)」と呼ばれるカテゴリーに分類されます。   内家拳とは、「内功」と呼ばれる外見上からは認識されにくい、「繊細な身体操作」や「気の運用」、「意識の活用」などの鍛練に重きを置いた門派の総称。   その重要な要領の一つに『内三合(ないさんごう)』というものがあります。  【心と意の合】  【意と気の合】 【気と力の合】 がそれです。   【心】とは、感情や心理状態のこと。 【意】とは、イメージや

          練武知真第33話 『心と体の繋がりを学ぶ為の武術』

          練武知真第32話 『長所を伸ばして、短所を補う為の武術』

          自分の理想とする完璧な人間を目指す。 人は「なりたい自分」を目指して努力します。 その努力は、必ず現状より高みへと自らを導いてくれます。 努力はその方向性さえ間違わなければ、決して裏切ることはありません。   ただ、どれほどの年月をかけても 当初に描いていた「完璧な理想像」になることはないように思います。 これはネガティブな話ではありません。 欠点のない人間は存在しないということです。   パーフェクトな理想に向かって努力するなかで、知ることになります。

          練武知真第32話 『長所を伸ばして、短所を補う為の武術』

          練武知真第31話 『掌はココロから生える事と知る為の武術』

          中国伝統武術「形意拳」や「八卦掌」では、防御は勿論のこと、攻撃においても『掌』を使う事が多いです。   特に「八卦掌」では、その名称が「拳」ではなく「掌」と記されるほど、多彩な使い方をします。   真っ直ぐ掌面で打つ。 掌面を振り下ろして叩く。 側方から張り倒す。 手刀にして振り打つ。 両掌を使って挟み打つ。 関節技を極める。 指先で突く。 指を使って掴み、抉る・・・など、 リストアップしたらキリがない程、掌は重要な「武器」になります。   さらに

          練武知真第31話 『掌はココロから生える事と知る為の武術』

          練武知真 第30話『清濁併せ呑む器量を育む為の武術』

          この練武知真シリーズで幾度も述べてきましたが、武術の元々の本分は闘いです。 伝統武術の中にはその要素が多く残されています。   例えば武器術。 槍や棍などの長い武器から、 刀や剣などの短い武器まで、 どれを手に取っても扱えるよう訓練します。 伝統武術に含まれる武器術は、表演用に開発されたものではなく、それを持って他者を打ち、斬り、刺して殺傷する為の技術です。   その背景は、 ルールがあり、審判がいて、試合会場で行うものとは異なり、 過日の日常において発

          練武知真 第30話『清濁併せ呑む器量を育む為の武術』

          練武知真 第29話『時間の概念を変える為の武術』

          スピード・・・ 武術は勿論のこと、多くのスポーツで重視される要素です。   誰よりも速く走り、 誰よりも速く投げ、 誰よりも速く動く。   武術や格闘技の世界でも、 速いパンチを放ち、 速いキックを繰り出し、 速い投げ技を極める。   その純粋な速さは、勝負の結果に大きく影響します。   私の教える伝統武術「形意拳」や「八卦掌」においても『速さ』は重要視します。 しかし・・・ 少し『速さ』の概念が異なるかも知れません。 武術に必要な『速さ』と

          練武知真 第29話『時間の概念を変える為の武術』

          練武知真 第28話『心に眠る野性を引き出す為の武術』

          やる気が出ない。 生きる目的が分からない。 生き甲斐を感じられない。   日々のルーチンに追われ、1日がアッという間に終わり、 そしてまた朝が来て、同じような1日が始まる。   周りとの協調性に気を遣い過ぎるあまり、必要以上に疲弊し、いつも疲れを抱えている。   休みの日には何もする気になれず、ダラダラと過ごしてしまう。   こんな話をよく耳にします。 私自身、そのような経験をしたことがあるので、その状況はよく分かります。   さて、本題に入る前に

          練武知真 第28話『心に眠る野性を引き出す為の武術』

          練武知真 第27話『他人との距離感を学ぶ為の武術』

          人との付き合いは、なかなかに難しいものです。   相手がどのような気持ちでいるかを心のうちで探り、 平和的な空気感を作り出すことに精を出して疲れてしまったり、 自分の主張を通そうとし過ぎて、逆に人が離れていって孤立したり。   家族間においては、互いの距離がグッと近く、 共に過ごす時間がズッと長くなる上、 共同生活者として付き合いの深さももっと深くなります。   人に合わせ過ぎると、自分が振り回されて疲弊し、 自分ばかりを立て過ぎると、人との間に軋轢を生

          練武知真 第27話『他人との距離感を学ぶ為の武術』

          練武知真 第26話『自分の価値は自分に置く事を学ぶ為の武術』

          武術には試合があります。 どちらが強いかを競い合い勝敗を明らかにする為に。 中国武術では『比武』と言ったりします。   元々は危機的な状況に対する自衛手段であった武術。   それが平和な時代に入り、日常的な危機はそれほど多くはなくなった代わりに、「戦闘的な強さ」を一つの価値基準とした「文化」へと発展してゆきました。   技はより巧妙になり、技術や訓練法も体系化され、文化の特徴でもある「伝承」も儀式等を伴って行われるようになりました。   人間は「強さ」に憧

          練武知真 第26話『自分の価値は自分に置く事を学ぶ為の武術』

          練武知真 第25話『時を越えて人と繋がることを学ぶ為の武術』

          私は伝統武術家です。 中国の伝統武術『形意拳』と『八卦掌』を長い間修行してきました。   当時茨城県に住んでいた、ハルピン出身の中国人伝統武術家 『趙玉祥老師』 に茨城大学2回生の時に出会い、卒業までの間、毎朝、小学校の校庭で形意拳のマンツーマン指導を受けました。   大学を卒業し、地元京都の警察官として働くことになり、趙老師と一旦お別れすることになりました。   そして・・・ 京都府警で2年間働いたのですが、色々な事があって辞職することに。   さて

          練武知真 第25話『時を越えて人と繋がることを学ぶ為の武術』