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練武知真 第27話『他人との距離感を学ぶ為の武術』

人との付き合いは、なかなかに難しいものです。

 

相手がどのような気持ちでいるかを心のうちで探り、

平和的な空気感を作り出すことに精を出して疲れてしまったり、

自分の主張を通そうとし過ぎて、逆に人が離れていって孤立したり。

 

家族間においては、互いの距離がグッと近く、

共に過ごす時間がズッと長くなる上、

共同生活者として付き合いの深さももっと深くなります。

 

人に合わせ過ぎると、自分が振り回されて疲弊し、

自分ばかりを立て過ぎると、人との間に軋轢を生じます。

 

動物に癒されるのも、そのような面倒な気遣いが必要なく、

ハートとハートで接することができるから・・・

という一面もあるからではないでしょうか。

 

かくして人と人との付き合いはなかなかに容易ではないです。

 

さて。

武術は本来格闘術です。

人と人とが戦うための技術です。

そこには人間に対する深い洞察があります。

 

例えば『間合い』。

相手との間の距離と解釈される事も多いですが、勿論それだけではありません。

 

相手がどういう状態かを観察し、

相手が何をしようとしているかを推察し、

相手と自分の間に流れる空気を洞察します。

 

間合いを介して、相手と自分が繋がっているのです。

人と人とが繋がる・・・

それはまさしく一種のコミュニケーションと言えます。

 

つまり武術の訓練法には「他人との距離をコントロールする技術」があり、

それは転じて、「人と人との良好な距離感を構築する術」ともなります。

 

例を一つ挙げましょう。

中国伝統武術『八卦掌』には、『走圏(そうけん)』という特殊な訓練法があります。

(私が伝承する流派・九宮八卦掌では「活歩定勢八掌」といいます)

 

参照YouTube動画
『『中国伝統武術《九宮八卦掌》』推磨掌』

『九宮八卦掌・定勢八掌《下塌掌・托天掌・推磨掌》』

 

独特のフットワークを使って、木や柱の周りをグルグルと歩き続ける練習法です。

・円弧を描く移動法を身につける

・相手を多角的に把握する感性を身につける

・空間把握能力を向上する

・相手への集中力を高め、自らを軽快にする

など様々な効能があります。

 

この訓練では、幾つかの腕の形のバリエーションがあります。

流派によってその構成は変わったりするのですが、私の流派・九宮八卦掌には

『推磨掌(すいましょう)』

と呼ばれる、両掌の手刀(小指側)を円の中心に向けて推し出したスタイルがあります。

簡単に表現すると、両手の指先を上へ向けたチョップの形。

この掌を円心に向けて差し出し、目と意識を円心へ集中させながら、脚は円周を歩いてゆくのです。

 

ここでまず大切なことは【自分をしっかりと立てる】ということ。

円の中心に集中していると、

姿勢が徐々にそちらへ傾いてしまったり、

同じ円周を移動していたはずが、知らず知らずのうちに円心に引き寄せられてしまったり・・・。

 

「円心に集中はすれども、自分を崩さない」という事がとても重要なのです。

 

この訓練法にはまだ先の展開があります。

円の中心を置かずに、円周上において二人で向かい合い、相手に集中しながら同じ円周を同じ方向に歩いてゆくのです。

 

ここで学ぶべきことは【相手との距離感】です。

相手に集中し過ぎて、無暗に近づいてしまったり、

相手を警戒するあまり、遠ざかってしまったりする事のないようトレーニングします。

 

そこで先ほどの「推磨掌」が役立ちます。

互いに相手に向かって差し出した推磨掌。

これが相手との距離感を保ってくれるのです。

相手との間に掌を置く事によって「寄らず離れず」の関係性を作り出してくれます。

寄り過ぎると戦いが生じ、離れ過ぎると関係性が切れてしまう。

 

互いをしっかりと意識しながらも、

自分が崩れてしまうことなく、

二人で同じ円を描くという共同作業を行う。

 

自分を立て、相手を立て、豊かに繋がってゆく。

 

人と争う為の武術は、見方を変えると人と繋がる術になる。

私は武術のそういう感性が大好きなのです。

 

 

2024年8月21日 小幡 良祐

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