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マルケの食卓&ワインを復習してみた(1)

昨年9/12〜9/20、イタリア中部、アドリア海側のマルケ州に食とワインの旅に出かけました。出張でもないのにワイナリーを5軒、観光らしき名所には一つも行かない食とワインの旅。どこかに書きたいなーと思っても、マルケ州というイタリア人でもなかなか行かないような州なので、企画を持ち込んでもまずはマニアックすぎると言われる。でもこういうところほど行ってみると面白いのです。仕事でイタリアに行くと、どうしても北部中心になってしまうので、今回は久々にこれこれ、イタリアの面白いとこ、って旅でした。ずっと寝かせてしまい、記憶も薄れた頃、マルケの旅仲間だった料理家さん二人から「マルケ料理の会やるから、ワインの話とかマルケで会った変人の話をしにきてー」ということで参加して参りました。

マルケ州

海の幸にヴェルディッキオ

マルケ州は、日本でいうと日本海側的なアドリア海側にあります。どこから行くにもアペニン山脈に阻まれた孤高の土地。裏を返せば攻め込まれにくい。イタリアの中世都市国家時代には宮廷文化が花開き、ラファエロなど世界的な画家を輩出しています。風土的には平地が少なくて海岸線からいきなり丘陵、山なので、傾斜はありますが海と山の距離が近い。イタリアワインの師匠、故・内藤和雄さんからは「マルケに行ったら何はともあれヴェルディッキオ。昼は魚介と、夜は肉料理でね」と言われていて、ともかく色んなヴェルディッキオを飲み倒す。これが旅のミッション1でした。

ヴェルディッキオは、マルケ州中部から北部に特有な土着ブドウの品種です。海側だと柑橘やエキゾチックなフルーティさもありながらミネラル感、たまに塩っぽさも感じるワインになり、山側に行けば酸の豊富な熟成型のワインになる二面性が魅力。有名産地は、海と丘陵部中心のカステッリ・デイ・イエージと完全山側のマテリカ。今回訪問したワイナリーは、いずれもカステッリ・デイ・イエージです。

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ワイナリー「ヴィッラ・ブッチ」でちょうど収穫に入っていたヴェルディッキオ。男前な女性オーナー、クラウディアさん曰く「象の顔みたいな形で実がぎっしり詰まってるの。こんなに実が詰まっていても病気にならないのは、アドリア海からの風のおかげ」

9月の海側は、まだまだ夏のカケラが残っていて、ビーチには夏を惜しむ人たちの姿がありました。ビーチと一体化したような立地で魚介が評判のレストラン「リストランテ・ダ・ジャケッティ」へ。目的は魚介料理です。若めの軽そうなヴェルディッキオを選び、それにブロデット(魚介のスープ。マルケの呼び方)、小さなつぶ貝をニンニクやトマトと一緒に煮込んだものを。ムッショリというアンコーナ(マルケ州の州都)界隈で採れる小ぶりながら味の凝縮したムール貝があるのですが、これを食べるのも小ミッション。貝系統へのヴェルディッキオの受け止め方はさりげなく。けれど、魚介の臭みは一切感じさせず、食事もワインも止まりません。


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(上)ムッショリ(ムール貝)、つぶ貝。(下・左)ブロデット(魚介のスープ)(下・右)レストランのプライベートビーチのような立地。海からレストラン直行な距離で水着姿のお客も多い。大人気のレストランです。

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ワインリスト。ヴェルディッキオだけで1ページ半ほど。ローカルレストランのワインリストはこれが楽しい。

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山の幸にもヴェルディッキオ

前半の宿は、ペーザロという北マルケの港から内陸部にある「ムリーノ・デッラ・リカヴァータ」というB&B形式の料理宿で、宿のマダム、アンナさんは本も出している料理名人。アンナさんが昼食に作ってくれた「リピエーノ・ディ・コニリオ」(ウサギ肉の詰め物)。ウサギ肉の中に、イラクサと人参を巻き込み、オーブンで焼きます。切ると魅惑的なマーブル状の断面が現れます。


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これまたヴェルディッキオで試したかった。しかし、彼女的にはヴェルディッキオは高級ワインだそうで、もっと地酒的に飲まれている白品種「ビアンカーメ」という北マルケのワインが出てきました。今回の旅でウサギに合いそうなヴェルディッキオはこちらかな。

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「ファットリア・サン・ロレンツォ」Fattoria San Lorenzo 畑は軽石状のサラサラした感じで塩分も含む。ブドウ畑の中には他の植物も植え、ダイバーシティある畑作りがモットー。現在は、セメントタンクとステンレスタンクを使用していますが、国内でようやく良い樫樽が見つかり現在乾燥中。樫樽に切り替えていく予定だそうです。「ワインは息ができないとだめ。樽を焦がしてバニラ臭つけるなんて邪道」と言い放ってたのが印象的でした。一番右の<Campo delle Oche 2014>は、熟成したヴェルディッキオの魅力が出ていました。バターのような乳酸香でボリューム感もあり、白身肉に合う。ぜったい合う。

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「ヴィッラ・ブッチ」VILLA BUCCI のヴェルディッキオ代表<VILLA BUCCI >。自然に任せた乳酸発酵。日本酒でいう山廃です。ワインも安定した発酵を促すために乳酸を添加しているものが多いのですが、こちらは自然由来の乳酸菌。マルケに多い豆料理にも白身肉にもとても合いそう。

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ワイナリー近くのレストランでヴェルディッキオの垂直(同じワインの年代違い)試飲という幸せを体験させていただきました。右から2017、2015、2014、2007、2004。飲んじゃって右側の色がわかりませんが、左に向かって色づきは濃厚に。蜂蜜香、全体的な厚みがどんどん増します。2007は完熟パイナップルみたいな香り、かつ複雑なアロマ。息子さんの生まれ年のものだそうで、貴重なものを、、感謝感激です。2004に合わせたのは、ヴィンチス・グラッシ(画像)というマルケの郷土料理で、心臓、レバーなど肉の臓物のラザーニャ。こちらも私的ミッション2。どうしても今回の旅で食べたかった料理で叶えてもらいました。満足じゃー。こういうパワフル肉料理×熟成ヴェルディッキオ。ありです。

さて、今回の料理教室では、日本では入手しにくいウサギではなく、鶏のリピエーノを作りました。「ヴィッラ・ブッチ」のヴェルディッキオがやっぱりよく合いました。

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マルケの白ワインといえば、主役級はヴェルディッキオなのですが、南マルケの方に行くとなりを潜めます。そして最近、南マルケがうちらはこれ!と力を入れている土着品種が「ペコリーノ」です。羊のチーズと一緒の名前、です。しかも、羊のチーズには合いません。羊の肉にも合いません。これまた魚介系の料理や肉なら白身肉に合う、なかなか使い勝手の良いワインです。なんでもこのブドウ、元々地元にはあったのですが、羊牧エリアに生えていて、よく羊が食べていた(説)ため、テヌータ・コッチ・グリフォーニというワイナリーのオーナーが試しにワイン醸造したところ、良いできで、苗を周囲に配って生産量を地域で増やしていったとのこと。諸説ありますが、このコッチさんが立役者であることは間違いないそうです。ヴェルディッキオよりも早飲みで気軽に楽しめるのがペコリーノの魅力。私たちが訪問した「レ・カニエッテ」というワイナリーのペコリーノは印象的でした。日本の試飲会で、私はこちらの赤ワインがとっても綺麗で好みな味だったので、絶対に行きたいと思ったのですが、白も良かった。そして、ワイナリーを案内してくれたオーナーの次女、ベロニカがとっても可愛かった。彼女にはお姉さんがいて、お姉さんはもう一つの南マルケの白品種「パッセリーナ」に命名されていて、「ペコリーノ」は、彼女の名前”ベロニカ”が冠されています。ブドウ品種が姉妹それぞれのアイデンティティに結びついているなんて、イタリアファミリーらしいエピソード。

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左が「ペコリーノ」100%の<VERONICA>。白い花のようで酸が綺麗。内藤師匠のオススメは、「ペコリーノ」に貝や甲殻類のスープや煮込みを合わせる、でした。マルケにはアサリなどの貝と豆のスープパスタという独特な郷土料理があるのですが、料理教室では、このパスタと白のペコリーノが良かったです。

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この卵たっぷりの細麺パスタ、マルケではマッケロンチーニと呼ばれています。手打ち麺で、物凄い勢いで汁を吸います。現地で教えてもらった時の画像がこちら(下)。

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こうして並べて見ると再現度高し!味の再現度も高し!でした。

長くなったのでこの辺で一旦中締め。次回は、マルケ代表の赤ワイン「ロッソピチェーノ」と、マルケで出会った変人さんたちと食の続きを書く予定であります。

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柴田 香織    KAORI SHIBATA by KOTODAMA PRESS
今後の取材調査費に使わせていただきます。