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2018/06/24 (回想録 Vol.3: イタリア[3])
イタリア・パヴィーア。快晴。
パヴィーアの美術館は古城をそのまま改築した美術館である。かつてこの土地の貴族が戦争を想定して築いた城だが、建築後に戦火に巻き込まれることは無かった。それゆえ、現在では威厳と優美さを兼ね備えた佇まいをしている。
その日、美術館ではゴヤの展覧会をやっていた。門の傍らにはモノクロのその大きな看板が立っているが、城までの距離には公園が広がっている。ベンチでは歓談する老夫婦や恋人同士と思われる女性二人がキスを交わしたりしていた。内堀の淵に見たことのない鳥が二匹、何かを啄んでいた。近づいても逃げなかったが、目が合うと反対側の崩れた外壁に飛び移ってしまった。
美術館の入り口は正面ではなく城の裏手にあった。受付にゆくと、年齢を聞かれた。やはりアジア人は若く見られるのだろうかと考えながら、未成年ではない旨を伝え、写真撮影は可能かと聞くと、フラッシュを焚かなければよいと言われた。チケットは裏面に城の遠景の写真が施されていたが、複数の展示区画ごとに切り取る方式のため、元の形を留めておけないことを残念に思った。
展示室は本当に元の城の造りを残しており、改装してあるところといえば窓に摺りガラスとブラインドが取り付けられている程度であった。ゴヤの展示はどうやら撮影禁止であったようで、学芸員から撮影を控えるよう声をかけられた。キャプションはすべてイタリア語だったので、英語への翻訳のためにスマートフォンを向けたいと伝えたところ、それは問題ないということであった。
市美術館にしては展示は古代から現代まで実に充実していた。監視塔に登れないのは残念だったが、屋根裏空間も上手に利用していて、建築としての価値もあると感じた。
二階回廊の手摺には番の鳩がとまっていた。カメラを向けるとすこし警戒したが、逃げることもなく中庭を眺めていた。回廊の一番端には車椅子用のエレベータがあり、そこだけが隠されるようにして一階の茂みから建っていた。
美術館を出て、今では使われることのない堀の底を歩いた。石造りの井戸や塀の跡は崩れてもなおそこに何かが存在していたことを主張していた。正面の門へ上る坂の脇の茂みで黒猫の瞳が光っていた。しゃがんで見つめると威嚇をされたので、イタリア語で挨拶をすると通じないようであった。
入ってきたのとは違う門を出ると小さなロータリーのようになっていて、こちらが正門だったことを知った。ロータリーの中央の花壇の花の匂いがつよく、それを確かめたかったが、若者のグループが写真撮影を始めたので市街地戻ることにした。
時間の経過と日差しの変化が、確実に日本とは違っていた。