夜と羽化|詩
霜を踏み分けて
ガラスの靴で歩くきみ
冷たい風と樹皮に積もる
ダイヤモンドダストをあつめた瞳で
ある日きみはぼくを見た
なにかが凝った闇のように
雫を結んで
ぼくのまんなかを
落ちていった
こんな深さで出会ったら
ぼくはきみに変えられてしまう
それが怖くてずっと独りでいたけれど
いまはもうそれでもいいから
きみのそばにいたい
何度も抱きしめて
深く愛し合っても
きみの一番奥に眠る海には届かないから
ぼくはついきみを
めちゃくちゃにしたくなる
でもちがうんだ
その望みは
独りの夜にむくむくと
闇の塊にまで育って
ぼくを飲み込もうとするけれど
ずっと目をそらさずに
きみがくれた
凍月のレンズで見つめていたら
きみとぼくのあいだに起こる
あらゆる喜びも痛みも
数限りなく際立って
ああやっとわかった
これがこの世の最善の出会いなんだって
すべての色彩を飲み込んだ闇は
深い喜びの
静かな粒子でできていた
星のようにひとつひとつ
きらめいているのが見えたんだ
なぜぼくは微視的に
そのひとつぶひとつぶを
味わい尽くしたいと
望んでしまうのか
そんなことをしたら
きっときみは壊れてしまうのに
一瞬一瞬がかけがえのない
つぶで
ぼくにはそのひとつでさえ
強すぎるように思えるのに
神さま
なにもかもを暴き立てずに
ただ寄り添う人になれますように
太陽と月の果てに立っているきみを
新月のレンズで見つけ出すことができますように
きみの海でやさしく光る
寄せては返す波に
いつかふたりで
たどり着けますように
──夜と羽化、或いは美への目覚め──
(2025.1.12)
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