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着物はシンプルな方がいい

「着物に興味はあるけれど、どう着こなせばいいのか分からない。だからいつまでも挑戦できない」

 洋服のような流行もなければ、コーデについて解説したSNSもほぼ見かけない、着物というファッションアイテム。情報が少なすぎて、何が正解なのか分かりません。そんな着物初心者のなんと多いことか。

 そんな悩みを抱いた人々に向けて、筆者の経験も交えた「着物のコーディネート」について、本日は書いていこうと思います。

 さきにこの文章の結論をお伝えしておきます。ファッションは自由で、自信を持ってさえいればどんな着こなしでもいいと思います。しかし私は、シンプルにまとめることをおすすめします。

 本日は、着物をシンプルに着こなす具体的な方法を、シンプルさの魅力も随所で述べつつ、説明していきます。

※着物を着たいけれど踏ん切りがつかない。誰かに背中を押してほしい。そんな方は、こちらの記事もお役に立つかと。


着物を「シンプル」に着るためには

 「服をシンプルに着る」ということを考えていきますと、「目立たない」「地味な雰囲気」「無味無臭」といったコーディネートを想像してしまいます。

 もちろん、そのイメージは間違ってはいません。しかし、江戸時代の隠れキリシタンのような、抑圧された雰囲気で着物を着る必要はありません。着物もファッションのひとつですから、シンプルさを楽しんで着こなしていけばいいんです。

 シンプルな着物コーデをどう組み立てるのか、詳しく述べていきます。

無地に勝る柄はない

 まずは着物を買わないと、なにも始まりません。とはいえ、シンプルな着こなしに向いている着物をどうやって探せばいいのかと、最初は戸惑ってしまいますよね。わたしは古着屋をよくおすすめしています。オンラインショップでも、素敵な着物を買うことができます。

 しかし、そうやって探していくと、ある問題にぶつかります。

「柄が入った着物しかない!」

 縞模様や亀甲柄など、生地の織り方で表情を出したものは定番でよく見かけます。しかし最近では、ドラゴンの刺繍がほどこされたものや、縫い糸の色を変えて縫い目をデニムのように主張したものなど、九州の新成人をターゲットにしたような多彩なデザインの着物も売られているのです。

 冒頭で述べた通り、ファッションは自由ですので、これらのデザインを否定するつもりはありません。あくまで私は選ばないし、友人にも勧めないというお話です。


 シンプルな着こなしをするのなら、やはり無地の着物がおすすめです。洋服のファッション指南とまったく同じですね。

 では、「なぜ柄の入った着物はおすすめできないのか」という視点で、少し掘り下げていきましょう。もちろん、シンプルな服といえば無地ですから、柄は入っていない方が好ましいです。洋服と同じ、自明の理です。ところが、こと着物となりますと、柄を避けるべき意味合いが少しだけ強くなります。なぜなら、生地のデザイン(柄)の主張が洋服よりも強いからです。

 たとえば、鮮やかな赤のセーターは着れるけれど、赤いロングコートは躊躇してしまう、とか。
 たとえば、着こなしのワンポイントに水玉柄を使いたいんだけど、Tシャツだと派手だから靴下くらいにしておこう、とか。
 
 こんなふうに、布の面積が広くなるほど、その色柄の主張は強くなり、着こなすのが難しくなっていきます。そして着物は、洋服と比較して非常に布面積の広い衣服ですから、たとえ細かな柄であったとしても印象が強くなってしまい、コーディネートの雰囲気に大きな影響を与えます。色柄の主張が強い服では、シンプルな装いは難しいですよね。


 無地の着物を初心者さんにすすめる理由は、他にもあります。

 着物のおでかけに慣れていない人は、いつもと違う服装ですから、落ち着かないでしょう。「すれ違う人すべてが自分を見ている気がする」なんて、他人の視線を気にしてしまうものです。そんな神経質になっている時に、柄の入った、つまり強い印象の着物を着ていると居心地が悪いのなんの。「なんか自分、派手すぎない?」と気になってしまい、せっかくのお出かけが苦行に代わってしまいます(私は縞柄が好きです。しかし初心者の頃は、夏祭りでもないのに浴衣を着た浮かれてる人みたいで、なんだか恥ずかしいなって思ってました)。

とある夏の日

 みなさまにおかれましては、最初の着物は、まるでユニクロのようなシンプルな無地の着物を選ばれることをおすすめします。

 無地は無個性でつまらないと思っているそこのあなたのために、オンラインショップも展開しているおすすめのブランドを、いくつか載せておきます。無地だからとなめてはいけません。

十人十色と言うけれど

 衣服において色は重要です。元気が出る色、落ち着いた印象を与える色。知的であったり色っぽく見せたりと、まさに色々な雰囲気を表現できます。最近では、パーソナルカラー診断で似合う色が客観的、科学的に分かるようになり、ますますファッションが楽しくなってきたという感じがします。

 男着物はネイビー、ブラウン、グリーンあたりの渋いものが定番色でしたが、最近では赤やパステルカラーなど、多彩な色展開のブランドも多いようです。選択肢が多いのは、嬉しくもあり、大変でもあります。春だから、なんて浮かれた理由でピンクの着物を買ってしまった日には、コーディネートに悶々と悩む未来が確約されてしまうことでしょう。

 本記事では、着物でカフェや商業施設などにお出かけすることを想定した、「街に馴染む着こなし」を提案しています。そして私は、そんな着こなしをするならば、色選びはダークトーンをおすすめします。

 ダークネイビーがイチオシです。ブラックやグレーもいいですし、こげ茶や深緑もいいかもしれません。これらの色合いであれば、洋服のファッションの文脈でコーデしやすいです。コンクリートジャングルな灰色の街中では、どの色も馴染みます。着物だからといって悪目立ちしないのです。

 それとは反対に、明るい色(明度が高い)を選ぶのはおすすめしません。着物ほどの広い布面積が明るい色合いになるわけですから、主張がかなり強く、目立ちます。前述した柄と同じ理屈ですね。そんな着物は笑点や成人式を連想させることもありますので、着こなしを工夫しないとコスプレチックになってしまうかもしれません。

 ただでさえ珍しい着物姿。わざわざ目立つ色を着なくても、十分存在感は漂うのです。

種も仕掛けもいりません

 われわれは、常に目新しさ、新鮮さ、そして刺激を求める生き物で、その傾向は着物にもあらわれています。

 ベルトがついている着物。ポケットがついている着物。スリットが入った着物。どれも従来の着物に機能性を持たせようと、新たなギミックが追加されたものです。ネットで探せば簡単に見つけられます。デザインとしてフードやジッパー、刺繍などがあしらわれた着物もあるのですから、着物の可能性は無限大と言えるでしょう。

 しかし、これらの着物は、初心者さんにはおすすめしません。いつか、ギミックの「わざとらしさ」を持て余すことになるからです。

 ギミックのないシンプルな着物は、カジュアルに着こなすこともできますし、お洒落なレストランで気後れしない、大人な着こなしをすることもできます。着る側の都合次第で、いかようにも雰囲気を調律することができるのです。 

 その一方で、機能性を付け加えられたギミック着物は、融通が利かないところがあります。機能性を追求しているが故の、ある種の使いづらさという点は、ミリタリーアイテムと似ているかもしれません。軍もののファッションは私も大好きなのですが、TPOに合わせづらいのが欠点です。アウトドアや焼き鳥屋なら気兼ねなく着て出かけられます。しかし、お洒落なお店に行く予定があったり、落ち着いた雰囲気で着こなしたいときには、どうやって着こなそうか頭を悩ませがち。そして結局、使いやすいオーソドックスな服を手に取りがち。どんな場面にも着ていけるような万能アイテムではないのです。軍ものも、ギミック着物も。


 シンプルな着こなしをしたいのなら、着物にギミックや味付けはいりません。種も仕掛けもない、ただただシンプルで、なんの変哲もない着物を手に取ればいいのです。

サイズ感はやっぱり大事

 ここまで、おすすめのシンプルな着物の要素について述べてきました。「無地」「ダークトーン」「ギミックのついていないもの」の3つです。
 
 あとは実際に着物を選ぶだけです。その時には、ぜひサイズ感も気にしていただきたい。

 着物は、たっぷりの布で作られたゆったりした衣服であるが故に、サイズに関しては懐が広いといえます。多少サイズが違ってもいても、問題なく着られるということですね。身体にぴったりフィットさせて美しいボディラインを見せようとする洋服と違い、身体を布で覆い隠すというのが着物の特徴です。

 とはいえ、サイズ選びが大切なのは洋服と同じです。どれだけ上等なジャケットを着ていても、大きすぎてだぼだぼだったら「お父さんから借りたの?」と言われてしまいます。小さすぎたら今度は「ラピュタの親方みたい」にぱつぱつになってしまいます。

 サイズが自分に合っていない衣服は、それ自体が高級であったとしても、どれだけ素敵なデザインであったとしても、似合っているとはいえません。


 着物のサイズ選びでわたしがお伝えしたいことは、とにかく身丈裄丈だけは自分にあったサイズを選んでほしい、ということだけです。
 
 ※身丈:着物の縦の長さのこと。
 ※裄丈:着物の腕の長さのこと。

 どちらも目安となる長さを提示できればよいのですが、残念ながらできません。身長からだいたいの身丈・裄丈を割り出すことはできるのですが、数㎝は誤差が生じます。シンプルな着こなしにおいて、これは致命的です。

 もし身丈が5㎝長すぎれば、着物の裾は地面についてしまいますし、歩くと裾をふんづけてしまいます。
 
 もし裄丈が5㎝短すぎれば、着物の袖から腕がにょきっと出ます。いわゆる「つんつるてん」な、中途半端でみっともない着姿になってしまいます。

 なんの変哲もない着こなしであるがゆえに、サイズが合っていないのはとても目立ちます。シンプルということは、過剰も不足もない、適度な着こなしということです。

 もし初めての着物をオンラインショップで購入する予定だとしても、事前に着物を試着してみて(古着屋なら気兼ねなく試すことができます)、ご自身に合う寸法をメモしてから買い物にのぞんでください。

シンプルさを勧める一番の理由

 初心者が最も怖がるものは、他人の視線です。

 不慣れな着物を着ていることで、目立ちしたくないという心理が働くわけです。そんな時、すれ違いざまに視線を感じることもあるでしょう。それにたじろいでしまうかもしれませんが、何の変哲もない着物をシンプルに着ていたなら、「ただ着物着てるだけですけど、なにか?」と背筋をしゃんと、強くあれます(というか、強くあれ)。シンプルに着ているだけですから、なにも後ろめたいことはないのです。

 しかし、もし初めてのお出かけで「ギミックてんこ盛りのライムグリーン着物~チェック柄を添えて」を着ていたら、他人の視線に対して気後れしてしまうことになるのです。

 さきほど述べた通り、初心者が着物で出かけると、周りの視線がいつも以上に気になってしまうものです。そんなナイーブな心理状態ですと、「じろじろ見られている気がする。きっと服装が変だからだ」と考えてしまいます。そして原因を、個性的な着物に見出してしまうのです。着物自体というより、「個性的な着物を選んだ自分のセンス」を見咎められているような、心がそわそわする感覚。これは、着物で出かけるのが怖くなるのに十分すぎます。

 着こなしに自信があったなら。着慣れていたら。その着物が大好きであれば。そんなたらればも、着続けていれば現実になりますし、何を隠そう着物で暮らす私には、他人の視線は痛くもかゆくもありません。ただ、初心者にその視線は強すぎます。

 だからこそ、種も仕掛けもない、悪く言いようのないシンプルな着こなしというお守りを、持っていてほしいのです。

結び

 着物はファッションアイテムのひとつにすぎず、シンプルな着こなしもひとつの選択肢にすぎません。この文章もつまるところ、気の持ちようにすぎない些細な事柄に言及したにすぎないのです。

 ただ、着物に興味を持った人の参考資料のひとつにでも、なっていたらいいなと願っております。

 最後に、少しでも着物を着てみたいなと思った方にこちらの記事をご紹介し、終わりたいと思います。

 おわり

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