【谷川俊太郎 絵本★百貨展】2人の詩人の「ひとりでいた時間」とは?
今年の秋、周南市美術博物館では「谷川俊太郎 絵本★百貨展」が開催されました。
11月16日の講演会「ひとりでいた時間」では、周南市で生まれ幼少期を過ごした詩人のまど・みちおさんと、谷川俊太郎さんの両方と一緒に仕事をされた市河紀子さんが2人の詩人について語ってくださいました。
満席の講演会
タイミングが合わず、いつ行こうかと迷っていた「谷川俊太郎 絵本★百貨展」。
11月16日に講演会があると知り、申し込みをしました。
この講演会を聞こうと思ったのは、講師の市河紀子さんに興味があったからです。
編集者という仕事もですが、何よりまど・みちおさんと谷川俊太郎さんの2人の詩人と一緒に仕事をしてきたという経歴が目を引きました。
「どんなお話しが聞けるのだろう?」
会場に到着して驚いたのが、聞き手の熱気です。
美術博物館のスタッフによると、今日の講演会は満席!
私の両隣の方に声をかけると、熊本県や広島県から来られた方でした。
今日に合わせてわざわざ講演会に申し込み、周南に来られたとのこと。
期待が高まります。
市河さんと谷川俊太郎さんの出会い
大学で宗教心理学の勉強をしていた市河さんは、谷川さんが翻訳した『かみさまへのてがみ』をモチーフにして卒論を書こうと思い立ちます。
翻訳した谷川さんのバックグランドを聞きたいと思った市河さん。
出版元から谷川さんの自宅の住所を聞き、手紙を出したのです。
「まだ個人情報の取り扱いが厳しくない、のんびりとした時代でした。しかも手紙に返事が来たのです。卒論が終わったら会いましょうと」
サイン入りの本を片手に「まだ大学生の自分を受け入れてくれた、こんな人になりたいと思いました」と語る市河さん。
笑顔でうなずかれる人、身を乗り出して聞く人、メモを取る人など、会場の人々も聞き入っていました。
詩人谷川俊太郎の姿
谷川さんとの仕事を教えてくださる中で、知らなかった詩人の姿が浮かび上がります。
「忙しそうにしていても、常に若い人を応援してくれるのです。コーディネーター的な人ですね」
市河さんも谷川さんから「出版の手伝いをしてほしい」と、後押しをしてもらったことがあるそうです。
絵本の制作では、絵を描く画家さんと言葉をつける谷川さんが一緒に仕事をします。
2023年に出版されたjunaidaさんとの作品『ここはおうち』のお話しをされました。
「画家さんがまず絵を描かれ、その絵に谷川さんが言葉をつけられます。出来上がった原稿を見ると、絵にピッタリの言葉で表現されているのです」
講演会後『ここはおうち』の展示を見た時、このエピソードを思い浮かべながら用意されていた絵本を手に取りました。
お話を聞いていなければ、原画を見えるだけで終えていたかもしれません。
谷川さんの言葉を読みながら原画を眺めていると、絵本というのは画家さんと作家さんが共同で、一つの世界観を作られていることがよく分かります。
「谷川さんは早すぎるくらいスケジュールを守る方、しかも言葉の直しがないのです。どの絵と組み合わせてもバッチリ決まる。編集者にとってとてもありがたい人」
谷川さんとの仕事を振り返った市河さんの言葉に、ライターとして仕事をしている私は背筋が伸びました!
まど・みちおさんと谷川俊太郎さん
周南市美術博物館の2階には「まど・みちおコーナー」が常設されています。
「谷川俊太郎 絵本★百貨展」に合わせて、まど・みちおさんから谷川さんへ送られたハガキが展示されていました。
「まどさんはハガキにびっしりと小さな文字で書かれているのです。消した跡もなく、同じ間隔で書かれている」
そして文末には「ご健筆を」と書かれているハガキ!
まど・みちおコーナーは撮影が禁止されています。
下記の周南市美術博物館の投稿、右側画像のハガキが講演会で話された展示品です。
まど・みちおコーナに行くと、講演会に来られていた市民の方が覗き込むようにハガキを見ておられました。
「講演会前にここに来たけれど、しっかりと見ていなかったのよね。聞かなければ見逃していたわ」
私も講演会を聞いたことで、じっくりと展示品に向き合えました。
2人の詩人の「ひとりでいた時間」
周南市(旧徳山市)出身の詩人まど・みちおさんは、6歳の時に家族と離れ10歳まで祖父と2人きりの生活を送りました。
ある朝目覚めると、母と兄弟が父の赴任する台湾へ旅立っていたのです。
まど・みちおさんの創作の元になっているのは、徳山で過ごした子どもの頃の日々だったと言われています。
実はこの日はまど・みちおさんの誕生日でした。
谷川俊太郎さんは一人っ子です。
老齢になっても「自分は一人っ子だ」とおっしゃっておられたそうです。
2人の詩人には、子どもの頃に「ひとりでいた時間」があったのです。
「それは詩心を育む、とても大切な時間だったのでしょう」と市河さんが解説されていました。
一番お気に入りの展示は?
講演会が終わり市河さんにご挨拶した時に尋ねてみました。
「一番お気に入りの展示はなんですか?」と。
「長新太さんが好きなので、2階の展示の『えをかく』ですね」
2階の展示室に入ると、開放的な空間が広がっています。
中央に伸びる本箱は、座って絵本が読めるのです。
絵と言葉を楽しむ空間。
「ひとりで絵と言葉に向き合う時間」がそこにありました。
記憶に残る言葉
2024年11月20日、谷川俊太郎さんが亡くなったという報道が全国を駆け巡ります。
亡くなったのは13日でした。
あの講演会の日には、すでにお亡くなりになっていたのです。
講演会後に展示会会場に入った私は、入り口の『ことばあそびうた』でケンケンをし、『おならうた』のドームに入りました。
楽しくてひとりで童心に返っていました。
谷川俊太郎さんの紡ぐ言葉は、私達の中に眠っているのです。
それは小学生の時に国語の教科書で出会った言葉もあれば、何度も読み聞かせた絵本の言葉もあります。
本を開けばまたお会いできますね!
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