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『推し、燃ゆ』

1,329字

タイトルの語感がすてき。
このタイトルだけで、ずっと気になっていた。

高校生のあかりは、推しを推すために生活している。
苦手な居酒屋のバイトも推しのチケットに変わると思えば、
上限いっぱいまでシフトを入れてしまう。

部屋の中はぐちゃぐちゃだが、
推しを解釈したブログ内やSNS仲間には、
落ち着いたお姉さん的なキャラで通っている。

ある日、推しがファンを殴ったというニュースが流れ、
推しの生活も一変し、
主人公の生活も影響を受ける。

高校は中退し、アルバイトはクビになり、
家族からは就活し、自活するように言われる。

亡くなった祖母の家で一人暮らしを始めるが、
病名もついている身体や心が重く、
就活もままならない。

家族からの仕送りも滞りがちになる・・・

昨日、コンビニの書棚で『名医が教える100歳まで健康に生きる習慣』というMOOKを買った。
食事、運動、自律神経の3つの観点から
お医者さんの書いた記事が読める。

その中で、自律神経の記事を書かれていた
小林弘幸先生の記事に、こんな言葉があった。

「コロナ禍が明けた今、自律神経が乱れている人が急増しているということです。約4年間、私たちは異次元の生活を強いられました。決して大げさではなく、第三次世界大戦が起こったようなものです。ストレスがたまり、メンタルも普通の状態ではなくなった人がほとんどでしょう。」

今、元の生活が戻ってきたように一見見えるけれど、
周囲にも体調不良の人は多いし、
自律神経の乱れと思われる症状を抱えている方が多い。

この小説の解説を同じく芥川賞作家の金原ひとみさんが書かれているが、
コロナ禍で、金原さんのお嬢さんの周囲でも
推しを推す生活をする子が増えたという。

実際に人と関わることが制限され、
ネットの中での行動が増えたから、
必然の結果なのかもしれない。

しかし、推しを推すという行為は、
入り口は入りやすいかもしれないが、
出口が見えない。
出口なんて見る必要もないのかもしれないが。

推しの声が起こしてくれる目覚まし時計で目覚め、
推しの音楽を聴きながら学校へ通い、
アルバイトをしてお金を貯めたら、
グッズや写真を買い、ライブに行く。

推しの声で目覚める、とか、
推しの声を聴きながら通学するとか、
確かに良さそう。

そうやって、日々を乗り越えることができたら、
それだけで価値があるし、
何より心に張り合いを感じられるのはいい。

節約You Tuberさんの動画を見ていると、
推し活は節約の大敵だから、などとも言われるが、チケットを買うために節約するという側面もあるし、お金の使い方は価値観の問題でしかないから、
その人の生きる活力になるなら、とも思う。

解説を書く金原ひとみさんも、主人公のような何かが足りない感覚を持ちながら生きていた、と書かれていた。そして、喪失を描く小説が読者の喪失を埋めることができる、とも。

推しを推すためにお金を使い、
それで推された人も推した人も幸せならそれでいい気もするが、
家族はやっぱり心配かも、って。

バイトで稼いだお金も全部推し活に使うんじゃなくて、
栄養のあるものを少しは食べて、って・・・

インスタライブの時に推しがゴハン食べながら配信するから、
自分も食欲ないけど一緒にゴハン食べる、とか
SNS関係の話題も多くて勉強になった。

『推し、燃ゆ』 宇佐美りん/著 2020年 河出書房新社

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