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書いたSSをまとめます。自分用です。 背景はフリー素材お借りしました。
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2019年3月の記事一覧

手折ってしまえたらどんなにか

手折ってしまえたらどんなにか

 窓の外を小さな花弁が無数に舞っている。
 そんな様をぼんやりと見つめていた。

「あなたの好きな花はなんですか」

 不意に隣で足を止めた人が言う。
 私はその人をちらりと横目で見て、また、外に戻した。
「花は嫌いです」
「どうしてですか」
「いくら希っても、その姿を留めておけないから」
 隣に立った人が少しだけ空気を揺らす。
 笑ったのだと、思った。
「それでもまた、来年咲きますよ」
 触れる

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その願いで咲く花は

その願いで咲く花は

 目深に被った帽子の下で、大きく息を繰り返す。
 傍にいる人には気付かれないように、浅く、浅く、深く。
 檻の中に居た私に手を伸ばしてくれた人。
 この人の傍でなら、呼吸ができる気がしていた。
 空も飛べるような心地がしたのに。
 思い切って飛び出して、知ってしまった。気付いてしまったの。
 私がいたのは水槽だった。
 私は魚で、水がないと生きていけないことに。

 それでも、
「私、人でいたいの

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心が望んだものは

心が望んだものは

「あ、」

 一緒に帰っていた友達二人の、どちらの声かはわからない。吐息のような声。
 その声に、地面を見ていた顔を上げた。
 マフラーに埋もれていた口元が外気に晒され、大きく吐き出した息が白く昇る。
 アスファルトを照らし始めた目がくらむほどの橙の日差しが、視界に飛び込んできた。
 その陽光に照らされて輝きながら、透明な球体がゆらゆらとまだ青みを帯びた空を映し込んで浮遊する。

「しゃぼん玉……

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