舞台「グラウンドホッグ・デー」-お願いだから福田組でミュージカルはもう二度としないで欲しい
11月中旬、舞台「グラウンドホッグ・デー」(以下、グラホグと略称)を観劇した。WEST.の桐山照史さんが主演、これまで多くのコメディー作品を手掛けてきた福田雄一さんが脚本・演出をした舞台である。
最初に言っておくが、これから書く感想は絶賛する内容ではない。
(演者はとても良かったから感想を書いたけど、全体としては辛口)
特に、福田組が大好きな人は今すぐ引き返した方がいいと思う。
趣味が合わないなら距離を置くのがお互いのためだ。
※ネタバレを含むので注意
※あくまで個人の感想なので、悪しからず。
作品概要は下記参照↓
東京国際フォーラムホールC ミュージカル『グラウンドホッグ・デー』
観劇前から感じていた「福田組」への不安
私はWEST.のファンだが、桐山さんの歌声や演技をめちゃくちゃ信頼していた。だから、ミュージカルの主演に決まった時は嬉しかったのだ。
声質的に芯が強くて声も太く、声量も十分あり、低音から高音まで安定感のある歌唱ができる……絶対にミュージカル映えするだろうと思っていた。
もし本作が「普通の」ミュージカルだったら、発表された時点で舞台観劇までめちゃくちゃ楽しみにしていただろう。
ただ、今回は「正直観に行くか悩むけど、まぁ一回だけ観るか」という不安>>期待で考えていた。
理由はなぜか。それは「脚本・演出が福田雄一さんだから」だ。
(桐山さんが以前にブログで「福田組で仕事をしてみたい」とおっしゃっていたらしいことはSNSで知った。そういう意味では、桐山さんにとって嬉しい仕事だったのだと思うが)
いわゆる「福田組」だが、個人的に当たり外れが大きい印象がある。
内輪ノリ、ウケたボケを何度も繰り返すしつこさ、有名作品のパロディーをぶっこむ突拍子のなさ……この福田組らしさが作品にマッチしたら面白くなる(映画「銀魂」シリーズとかは良かった記憶がある)が、そうじゃない時はめちゃくちゃ白けてしまうのだ。
この白け具合を例えると「学園祭で一部のクラスメイトだけが笑うような全然面白くない謎ノリを延々見せつけられている感覚」だと思う。
しかも今回は舞台だ。配信で観れる映画やドラマと違い、合わないノリが続いたとしても再生速度を上げたり飛ばすことはできず、耐えるしかない。
めちゃくちゃ不安だった。
観劇後の感想
ストーリーと演者は悪くない、むしろ良かった
普通にストーリーはおもしろかった。
グラウンドホッグ・デー(2/2)が繰り返されることに気づいた天気予報士のフィル。最初は女遊びをしたり酒で暴れたり色々やりたい放題するが、だんだん繰り返される日々に嫌気が差して自殺を繰り返したりするようになる。それでも繰り返される日々に諦めかけていたが、リタに打ち明けて色々と変えていき、ついにグラウンドホッグ・デーの翌日(2/3)を迎えることができる……ハッピーエンドで終わるいい話だった。
小憎たらしい天気予報士のフィルを演じる桐山さんはさすがの歌も演技だったし、ヒロインのリタを演じた咲妃みゆさんの歌も演技も良かった。
そしてネッグを演じた戸塚さんのコメディアンっぷりも素晴らしかった。
(各メンバーの感想は後ほど)
コメディーパートと歌パートのチグハグ感が否めない演出
ただ、全体を通した演出は普通に良くなかったと思う。
(好きな人はごめんなさい……私は理解に苦しんだ)
この舞台を通して何がしたかったのか、何を観て欲しかったのかが本当に分からなくて、話自体はよかったものの最後までモヤっと感は拭えなかった。
最初からコメディーに振り切りたいなら歌は冗長だからなくした方がテンポがいいし、ミュージカルをしたいのならそれぞれの曲をよく魅せる演出をこだわる余地があったと思う。
(パンフレットを読んで福田さんが「コメディにしよう」と思っていたのは分かったし、観劇中もそう思ったからちゃんと意図は伝わってる。ただ、ミュージカルと銘打っている以上は歌パートも大事なはずなのに、舞台中の演出として重要視していない印象を受けたから「それならミュージカルを演出しない方がいいのでは?」と悲しかった)
なんというか、全体的にコメディパートの「福田組」のノリと作品や歌パートのテンションが合わなさ過ぎてチグハグだったからだと思う。
(病院のシーンで有名作品のキャラクターのパロディが出てきたり、事故起こすシーンで機関車トー〇スの顔を福田さんにしたパネルが出てきた時が「これをあと数時間も観せられるのキツすぎる」「マジで帰りたい」と思ったピークだった……あのノリをするならそのノリが合うコメディ漫画の実写化映画かドラマでやって欲しい)
そして改めて言わせて欲しい。
この作品はちゃんとした「ミュージカル」として観たかった、と。
物語の内容や展開的にその方がもっと素敵な作品になっていたと思うし、ちょっと笑える要素がある「ミュージカル」で十分良かったのでは。
(制作側が「コメディをお願いするなら」っていう考えで福田さんにお願いした経緯だと思うから本当申し訳ないんだけど、これ元々のミュージカルがコメディじゃなかったみたいだし、それならここまでコメディに振らなくて良かったのでは……と思う)
あと、とても気になったことがある。
それは曲終わりの拍手のなさと曲終わりの微妙な間だ。
分かりやすくポーズが止まって終わる数曲以外、ほぼ拍手がなかった。
今までミュージカルを観てきて曲終わりは基本的に演者へのリスペクトを込めて拍手するものと思っていたから「拍手しないんだ」と驚いた。
(このあたりから「これミュージカルじゃないな」と気づき始めて見方を徐々に変えていったけども……)
歌の直後にすぐセリフがあって拍手をすると消えるから、なら分かる。
ただ、観ている感じ別にそういった感じでもなく、曲終わりの後から次の台詞までに微妙な間があった。あれ本来ならば拍手待ちの間だと思うんだけど、拍手がないからか曲と台詞パートを分断している間になってしまっている気がした。
(ネタバレ喰らいたくなくてSNSでの感想をほぼ見てないんだけど、もしかしてどこかで「拍手は基本しなくていい」とか注意喚起されてたのかな……だったら申し訳ない)
改めて言うと、本当に演者は悪くない。ただ演出が合わなかっただけ。
(たぶん私は福田組が想定していた「観客」じゃなかったんだと思う)
ここからは切り替えて、演者の良かったところを書きたいと思う。
桐山さんの安定した歌と演技
今回のフィルの役、きっと桐山坦からしたらご褒美だったと思う。
舞台はほぼ出ずっぱり、歌にダンスにタップに……と見所が沢山だ。しかも役柄的にフィルは態度がデカいし感じが悪くて女好きな男なので、普段の桐山さんとは全然違った色々な姿や表情を見られる。
周りへ口悪く接する小憎たらしい姿、女遊びしてイケイケになっている姿、気の強くておもしろい女のリタへアタックするも失敗し続ける情けない姿、自らの人生を諦めた表情、紳士的な振る舞いをする姿……ざっくり書いただけでもこんなにある。この小憎たらしいフィルを桐山さんは愛嬌も交えながら演じていたと思う。
そしてなりより、本当に歌が上手かった。ミュージカルに向いてる。
普段のライブやフェスでも全然音外さないし信頼していたんだけど、やっぱり安定していた。フィルが歌っている歌、普通に低音から高音まで音域が広い曲だったから難しいはずなんだけどサラッと歌っているように見せていて見事だった。
印象的なのは、二幕の「望み」だ。
いくら死んでも繰り返されるグラウンドホッグ・デーに嫌気が差しつつも、どうにかして抜け出そうと希望を捨てまいと自身を鼓舞するナンバーだが、ベッドで膝を立てた姿勢であれだけ力強く歌えるものなのかと驚いたし、その切実でまっすぐな思いが歌声に乗っていて聴き惚れた。「Never give up」と力強く歌っている姿がとても印象的だった。
そして、コメディパート。
冒頭、舞台上はひとりでディレクター役の声で色々ツッコまれるシーンは内輪ノリと中の人ネタがクドすぎて微妙だったんだけど(ごめんなさい)、他のパートは良かった。本当にずっと忙しなく動いて周りを見て笑わそうとしてるのを感じたし、まさか「Beautiful」を踊るとは思っていなくてサービス精神も感じた。
(中の人ネタ自体そんな好きじゃないけど、他の色々ブッ込まれたネタのなかでは許せる範囲かなと)
その他、リタとのラブシーンも普段なら上手くいくキザな方法では上手くいかないことに焦ったりしている初々しさも良かったし、中盤以降や終盤の「いい男」っぷりも素敵だった。
次こそはちゃんとしたミュージカルの舞台を観たい。
(たぶんこう強く思ったのは、小瀧さんの「デスホリ」、濵田さんと神山さんの「プロデューサーズ」がちゃんとしたミュージカルな上にすごく良かったからだと思う。桐山さんの実力を知っている分、雑念なく楽しみたかったなと思ってしまった……)
咲妃さんの美しい歌声と魅力的な演技
リタを演じた咲妃さんが本当に魅力的だった。
気が強くて仕事もできるけど恋愛には夢見がちなリタだったが、フィルに出会って困惑しつつも惹かれていく(実際はフィルが繰り返しのなかでリタの好みを把握して狙っていたのだけども)演技も素敵だった。
そしてなにより、声が綺麗で歌が上手かった。
高音の伸びやかさも恋愛に夢見ている情感の表現も素晴らしくて、さすが元タカラジェンヌと唸っていた。
(とても歌が素敵だったからちゃんと拍手したかったけどできなかったのが悔やまれる……ずっと曲終わりに心の中で大きな拍手を送ってた)
そしてそういう可憐さを感じる方だったんだけど、笑いに対しては全力なのもギャップがあって良かった。台詞の間がおもしろかったし、まさかの「Beautiful」も完璧に踊って下さるし、本当に芸達者な方だと思う。
これは演出に対しての苦言だけど、リタって十分面白い人だからフィルに大声で「ヤリチン野郎」とか叫ぶボケは本気でいらないと思う。
(あれ全然面白くないしウケてないし、リタのキャラクターと合わないよ)
コメディアンを全うした戸塚さんに大きな拍手を
あとはネッグを演じた戸塚さん、本当におもしろかった。
一幕の序盤、正直ややスベリ気味だった会場が戸塚さん演じるネッグの登場で一気に空気が変わった印象があった。会場の空気をあそこで一気に変えたコメディアンっぷりは感服した。
舞台を広く使いながらボケ倒してて動きも相まってずっとおもしろかったし、ボケもあまり内輪ネタに寄ってなかったしめっちゃウケてた。
桐山さんからのモノマネのムチャぶりにも全力で答えているところやメンタルの強さも良くて、カンパニーに愛されているんだろうと思った。
たぶん戸塚さんがいなかったら、きっと一幕序盤で帰っていたと思う。
(ごめんなさい、私にはそれぐらいキツかった……)
だんだんストーリー展開のテンポが上がって見やすくなる一幕中盤以降まで、ずっと「フィルとネッグのシーンは見ておくか」の一心でなんとか堪えたので戸塚さんのおもしろい演技に心から感謝と拍手を送りたい。