見出し画像

人事において「成功事例」をどう受け取るべきか

人事におけるデータ活用や分析のお話をいろいろなところでさせていただいてますが、その中でも良く聞かれる&いただく反応がよいのは「事例の紹介」、特に、「施策の成功事例」です。

「会社や組織を良くしたい」という想いから、ご自身の手で施策を設計・運用している人事の方は多いです。特に、人事課題は見えているものの、「打ち手」がない時、「施策の成功事例」を参考にしたいと思うのは当然のことだと思います。

成功事例からインスピレーションを受けて、課題解決にドンピシャの施策を設計できることもないことはないです。しかし、他社の事例を取り入れてみたものの、うまくいかなかった、という経験をされた方も多くいらっしゃると思います。

その一方で、人事における分析の観点では、「失敗事例」も「成功事例」に負けず劣らず重要と考えています。

今回は、人事において施策の成功事例をどう受け取るべきか、について書いていきます。

成功事例を取り入れるのは難しい

人事系のメディアの記事やセミナーなどでは、人事施策の事例として「成功事例」が紹介されていることが多いです。この場合の「成功」とは「何らかの課題を解決したこと」に当たるので、施策と課題は必ずセットで紹介されています。

会社や組織が違っていても、人事が抱えている会社や組織の「課題」自体は似ていることがあります。紹介されている事例で対処した課題を見て、「自分の会社とも似ているな、自身の会社でも活用できそう」と考えて取り入れてみたものの、うまくいかなかった、というようなこともあるでしょう。

なぜ他社の成功事例を適用してもうまくいかないことがあるのか、そこにはいくつか理由があります。

背景にある、ひと・組織が違う

似たような課題を持っていたとしても、その課題の背景にあるひと・組織が違えば、当然打つべき施策は変わってきます。成功事例では課題と施策がセットで紹介されていますが、背景としてその会社に所属する従業員がどういった特性を持つのか、組織としてどういった文化があるのか、など詳細に知ることはできません。

施策を設計するためには、課題がどういった背景から生じたのか、誰を(どの組織を)ターゲットとするのか、を分析する必要があるため、背景がずれた状態では適切な施策を行うことができません。

成功には偶発的な要因も混じる

成功した事例の中には、ひと・組織以外にも語られていない要因が混じっています。例えば、施策が行われたタイミングにおける外部環境の変化が影響することもあります。また、施策でリーダーシップを発揮した人の感情や性格も影響することがあります。これらは偶発的な要因であり、再現することは難しいです。

こういった偶発的な要因も関係している成功事例については、うちも同じような課題があるからと施策を適用しても、同様にうまくいく可能性は低いでしょう。

失敗事例から学べることもある

一方で、「失敗事例」は人事系のメディアの記事やセミナーでは取り上げられる機会は多くないと感じています。しかし、みなさん自身の会社や組織の中で「うまく行かなかった事例」はたくさんあると思います。そういった「失敗事例」をきちんと振り返ったり分析することはあまりないかもしれませんが、学べることは多くあると思っています。失敗事例から学び、失敗につながる要素を潰すことで「失敗しない≒成功」という状態をつくるやり方です。

この場合、キーポイントとなるのは「事例の再現性」です。

分析は「起こった事象の再現性」を確認すること

分析、という仕事には「起こった事象に再現性があるか」を確認する機能がある、と考えています。

分析のために集められたデータは原則、過去に起こった事象から生じたものです。そこから未来にも再現されるパターンを見つけ出す、というのが分析の大きな役割の一つです。再現されるものが成功に導くものであれば成功を繰り返すことができ、失敗につながるものであれば失敗を未然に防ぐことができます。

事例が多いほどたくさんのデータが集められ、分析することで再現性を確認することができます。そして人事に限らない話ですが、大抵の場合、成功の事例は少なく、失敗の事例は多いです。

以下のような観点から、成功事例よりも失敗事例をもっと参考にするべきだ、と私自身は考えております。

  • 成功に比べて失敗のほうが回数が多い(サンプルが多く再現性がある

  • これができれば必ず成功、という要素よりも、これができなかったら必ず失敗、という要素の方が多い(いわゆるノックアウトファクター

  • 失敗は自身でコントロールできる要素が要因だが、成功は自身でコントロールできない要素が要因となりうる(偶発性

勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし

という言葉がありますが(プロ野球の野村克也さんの言葉として有名ですが、江戸時代の剣術の達人の言葉とも言われています)、再現性やノックアウトファクター、偶発性の観点からも言えるのではないかと思っています。

成功事例をうまく取り入れるにはどうするか

とはいえ、紹介される成功事例を自分の会社でも活用したいと考えてしまうでしょう。成功事例をうまく取り入れるためには、他社事例における課題から特殊な条件を排除することで一度抽象化し、施策の要点を理解してから、その上で自社の課題との共通点を見つけ出し、自社の具体的な状況に合わせて施策を設計する、ということが必要です。いわゆる「具体」と「抽象」を行き来する、ということをやります。

事例として、「チームメンバーの成長を目的として、お互いの良い点・課題点をフィードバックし合うワークショップ」について考えてみます。イメージとしては、株式会社YOUTRUSTの事例株式会社ディー・エヌ・エーの事例が参考になります。この取り組みをそのまま実行してみても自分の会社や組織でうまく行くとは限りません。

  • メンバー同士の信頼関係の違い

  • 組織カルチャーの違い

  • メンバーの特性の違い

  • 会社や事業フェーズの違い

  • 職種・役割の違い

などを踏まえる必要があります。例えば、お互いの課題点を伝えるシーンでも、「ストレートな物言いが許される文化」か「お互いへの配慮が優先される文化」かによって伝え方が変わります。施策のフローもそれに合わせてチューニングする必要があります。

成功事例も失敗事例も、参考にして無駄になるものはありません。ただ、自分の会社や組織で活用するためには、再現性があるか判断したり、抽象化/具体化など繰り返しながら試行錯誤する必要はあるかと思います。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。
人事データをもっとこんな風に使えないか?といったHRMOS WorkTech研究所へのご相談や、noteへのリクエスト等ございましたらお気軽にお申し付けください!