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中東×現代アート

"中東と聞いて最初に思うのは、危ない、とか、紛争のイメージでしょ?流行っているものは先進国と同じ。
そんな中東もあるのに外からの中東のイメージはもう30年も止まったままだ。”

イラクに生まれ中東地域で活動するアーティスト、シェブ・モハの言葉として紹介される。
9月13日に開催されたBizjapanによるオンラインイベント「現代アート×中東 中東で活躍する女性アーティストの挑戦」にて、スピーカー現王園セヴィン氏により紹介されたアーティストたちを通し、彼女たちが訴えるもの、その姿勢を見てみたい。
中東のアートといえば、細密画?カリグラフィーとか?伝統的な芸術は、無論輝き続けている。けれど時代はそこで止まらない。この地域だからこそ、そしてここに暮らす女性にしか生み出せない粋で力強いアートの世界が広がっている。

地域のエンパワーメントに

サウジアラビアで活動するManal Al Dowayanはアーティストとして様々なワークショップを開催。地域の女性たちの参加型にすることでコミュニティに力をもたらそうとしている。
“Tree of Gardians”と名付けられたこの作品では、地域の女性たちにそれぞれの家族の女性だけの家系図をつくってもらう。一人一人の名前を葉っぱに書く。家父長制の社会の中で女性の祖先をたどるには時間も要するそうだ。

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Tree of Guardians

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次にこちら、“Suspended Together”は陶器の鳩が登場。女性が国外に出るためには男系の家族に許可をもらわないとならなかった。その実際の許可証を持ち寄り、鳩に印刷したという。

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Suspended Together

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外の世界に自分たちの現状を伝える、だけでなく地域の女性たちにパワーを持たせることで自ら動きだす促進力にもなる。参加型アートの可能性は無限大だ。

“中東の女性”というアイデンティティ

イランの写真家、Shadi Ghadirianの作品。https://www.youtube.com/embed/X3q_48te99Q


1:20 から続くセピア色の写真は、1925年までイランを治めたカージャール朝をイメージしたもの。衣装や背景は当時のように、けれど女性たちが持つのは現代の家電や新聞、ペプシまで。時代は移り変わり技術は進化するけれど、女性の家庭内での立ち位置は100年以上前と同じだ。
3:57からはチャードルに身を包む女性たち。その顔はほうきやざる、アイロンなど。ここにも女性がいかに家に留められているか、そのメッセージは強い。
パレスチナで活動するアーティストRaeda Saadehもまた、女性の伝統的役割の象徴をアートに用いる。

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Vacuum

故郷の砂地でひたすら掃除機をかけ続ける作品や、瓦礫に座り編み物をする自身の姿。地域がどんなに苛酷な状況にあっても解放運動に女性が参加しきれない現状、そして占領下でも女性への普遍的な占領は続き、彼女たちは従来のジェンダー的役割に徹する。その不毛さを表しているという。

ディアスポラの葛藤

女性の社会的立ち位置の酷さはもちろん、女性が自由に表現することに対しても規制が強い地域が多くある。中には国を出て、外から自国の状況をアートで発信する女性たちがいる。
イラン出身でアメリカ在住のShirin Neshatはその一人。アメリカに留学中にイラン革命を迎え、アメリカに残ることを選んだ彼女。
“Turbulent”はイランで女性は公の場でソロで歌ってはいけない、という規制へのメッセージだ。男性が一通り歌った後に歌いだす女性の前に観客はおらず、彼女の歌声は奇妙な音を発する。その不協和音が規制の理不尽さを表しているのだろうか。

イエメンに生まれアメリカで活動するBoushra Almutawakel 。ディアスポラとしてアメリカに暮らす苦悩を体現する。
9・11後にアメリカ国内のムスリムに対する風当たりが非常に強くなった際、アメリカ人でありムスリマである、というアイデンティティを表した作品。

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From THE HIJAB SERIES

ムスリマのまとうベールと言っても一重にまとめることはできず、その種類は宗派や家庭、環境で異なることを自らがモデルとなり収めた作品。このベールという存在が女性を本当に守っているのか、という課題の投げかけでもあるという。

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From THE HIJAB SERIES

混沌に生まれる、独自の輝きが伝えるものは…?

中東の女性たちによる現代アート。女性として抑圧された環境や、政治的、宗教的に落ち着かない状況下で、社会的に訴えかけるメッセージが大きいからこその力強さがそこには感じられる。一部で混沌が続く中、そこにアートで切り込んでいく女性の存在自体がギャップであり、攻撃性とやわらかさの共存を生み出すことで作品に独特の魅力を与えているのかもしれない。
ユーモアとポップさを兼ね備えた、どこか挑戦的なアートを通して、中東の女性たちに想いを寄せてみるのはどうだろうか。

〈協力・写真提供〉
Manal Al Dowayan、Boushra Almutawakel、Raeda Saadeh
〈参考〉
Manal Al Dowayan (http://www.manaldowayan.com/)
Boushra Almutawakel (https://www.boushraart.com/about)
9月13日開催 
「現代アート×中東 中東で活躍する女性アーティストの挑戦」スピーカー:現王園セヴィン氏
(文・大竹くるみ

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ごちゃごちゃした街と人混みが好き。レバノンに語学留学中、国内史上最大規模の反政府デモ、カルロス・ゴーンの逃亡、国のデフォルトとCOVID-19パンデミックに見舞われたけど、そんなレバノンの荒れたすてきさを伝えたい。)

この記事は、2020年9月20日に東京外国語大学オンラインメディア”Wonderful Wander”に掲載されたものです。http://tufs-wonderfulwander.info/archives/18325

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