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【BI-TO #03】産地交流×備前焼 珠洲焼の歩み、備前の地で前へ

2024年1月1日に発生した能登半島地震。家屋や工房に甚大な被害があり、作陶が困難になった珠洲焼作家を支援したいと、備前市・備前焼陶友会・備前焼作家や窯元が協力し受け入れ態勢を整えました。
そして今、珠洲焼の作家・研修生3人が備前市で制作を行っています。3人が備前の地で何を思い土に向かうのか、それを見守る備前の人たちとともに話を聞きました。(文:藤田恵、写真:池田涼香)

長谷川翠さん:石川県金沢市出身。茶器に興味を持ち、釉薬を使わない焼締めの器の美しさに惹かれ、自らの手で珠洲焼を作りたいと珠洲市陶芸センターに入所し、今年修了したばかり。

達美也子さん:東京都出身。10年ほど前から石川県に移り住み、作家が生み出す作品に触れる内に、自身もモノを作ることができる仕事を求めて珠洲市陶芸センターの職員として勤務。

有賀純一さん:兵庫県出身。Webマーケターとして働き、結婚を機に珠洲の地へ。珠洲焼を学ぶにつれ、陶芸を一生の仕事にしたいと珠洲市陶芸センターに入所後、独立。

大石橋宏樹さん:東京都出身。備前陶芸センター運営委員会委員長、作陶指導員。岡山県の吉備高原学園高等学校で備前焼の制作技術を学び、修行を経て備前焼作家として2007年に独立。

松熊健二さん:福岡県出身。陸上自衛官として災害派遣を経験後、結婚後に備前焼の窯元「小西陶古」に勤務。2023年の奥能登地震を受けて珠洲焼支援クラウドファンディングを実施。

能登半島の最先端・珠洲市で作られる「珠洲焼」

珠洲焼とは?
石川県の能登半島最先端にある珠洲市で作られている焼き物。釉薬を使わず高温で焼成することで生まれる、灰黒色の落ち着いた美しさが魅力です。その制作過程には備前焼との共通点が多いと言われ、約10年間にわたり珠洲焼作家と備前焼作家の間で交流が続けられてきました。

――まずは、珠洲のみなさんが備前に来ることとなった経緯を教えてください
松熊:
2年ほど前、焼き物について勉強しようと思って、車で六古窯+珠洲焼を巡る旅をしていたんです。その最中に珠洲焼館で篠原敬さんの作品に出会い、話を聞きたいと思ったんですね。篠原さんの工房に2〜3時間お邪魔して、珠洲焼の歴史だけじゃなく、昔から交流のある備前焼の歴史を教えてもらったり。充実した時間を過ごし「また珠洲に行きたいなぁ」と思っていたところ、2023年5月5日に震度6強の地震があったんです(2022年6月にも震度6弱の地震が発生しています)。
作品が割れたり、窯が倒壊したニュースにいてもたってもいられず、珠洲と関係の深かった備前焼作家さんに声をかけて、珠洲焼支援クラファンを実施しました。結果、150万円以上の寄付が集まり珠洲に送ることはできたのですが、2024年の正月に能登半島地震があって…。現地に出向いてのボランティアが難しい状況だと報道されていたので、じゃあ、備前市に避難してくる人を受け入れたいと思い、備前市役所の方と話を進めていたんです。

左から 長谷川さん、達さん、有賀さん、大石橋さん、松熊さん

――そんな時、困っている珠洲焼作家がいる、と情報が入ったんですよね
有賀:
僕ですね。災害時に兵庫県の実家に帰省していたので、珠洲に帰れなくなったんですよ。そこで篠原さんに電話したら、備前焼作家の森大雅さんを紹介されました。松熊さんも交えて色々と話をする中で、珠洲に戻っても震災の影響で作陶ができないなら、備前市に滞在したらどうかということで備前市役所に相談に行くと、すでに事情をある程度理解してくれたんです。それで、市営住宅、備前陶芸センターを使わせてもらえることになりました。

長谷川:震災直後は人命優先で作陶も窯焚きもできず、珠洲市陶芸センター修了展もできませんでした。2月頃から、水が出ない中で制作は続けましたが、精神面でも作品作りに集中できず、卒業制作 も納得のいく出来にならなくて…。

有賀:生活が第一で、そんな状況じゃなかったよね。

長谷川:だけど作陶を続けたい。そんな時に備前へ移り住む話を聞き、ありがたいと思ってお願いさせていただきました。

震災で崩れてしまった珠洲焼の工房の窯
有賀さんは兵庫県の実家に帰省中に震災が発生。帰ることができなくなりました。

――備前焼を実際見てどう思いましたか?
長:
赤いヒダスキのイメージが強かったんですけど、焼き方などでこんなにいろんな色・景色が出るのが意外でした。あと、皆さん薪窯を大切にされてますね。維持の難しさから、薪窯で焼成する珠洲焼作家は少ないのですが、備前に来たら、薪窯で焚いてる若手作家さんが多く「そっちが主体なんだ!」と驚きました。

有賀:僕は備前の土を掘りに行ったりもしますが、土の粘りやコシに驚きました。珠洲の土はあまり粘らず、曲線のある作品は耐えられず倒れてしまうことも。こっちで初めて備前の土を触り、ネチョネチョや!って思いました。これが”コシ”かと。

達:作る時に「たっぷりお水使ってもいいんだ」と思いました。備前の田土は、水で滑りをよくした方が制作しやすいです。

長谷川:水加減難しいですよね。珠洲の土は水をたくさん使うとヘタりやすくなるので、できるだけ水を使わず締めるように作ります。そのつもりで備前の田土を使うと全然水が足りず、すぐ手が引っかかってしまう。

大石橋:備前でも、水を付けすぎると粘土質が流出するからやめた方がいいとは言われてますよ。でもそれは上達後の話。最初はたっぷり水を付け、土と手の間が滑る状態でと指導しています。珠洲の3人は基礎がある状態でやり方を変えるのは難しいはずなのに見事に順応され、もう慣れてる感じがします。

有賀:その辺も、備前陶芸センターではしっかり教えてくれますよね。研修を丁寧にしてくれるので、成果を出しやすい施設だと感じました。

大石橋:今年は特に、研修生さんたちの取り組み姿勢が前向きで、飲み込みも早い。そこに珠洲の3人も一生懸命取り組まれるから、相乗効果でセンター全体に良い空気が流れています。

達:講師の皆さんはもちろん、備前の街で「こういうことをやってみたい」と言うとすぐ「この人に聞いてみたらいいよ」と紹介してくれて、陶芸をするのにすごく適した環境。マイノリティな世界に身を置いているのに過ごしやすく、ここで陶芸を続けられたらいいなと思います。

同じ焼締陶器でも、珠洲焼と備前焼で、土や作り方にも違いが。


松熊:
備前焼の職人が数百人いて、さらに街中で登り窯を焚くことを受け入れてくれる地域の理解の高さに驚きますよね。地元の伊部小学校にも登り窯があって、小学生が作った作品を先生たちが焼く。子どもたちの教育も含めて街全体で備前焼を見守る珍しい街です。

長谷川:珠洲焼は一度途絶えてから復興した焼き物で、どうやって作られてきたのかを研究しながら作る一方で、備前では昔からこういう技法や作風でやってきたんだよと受け継がれているのを聞く度に、長く続いてきた土地ならではの面白さを感じます。これから先は、こうして関わってきた人たちとの交流を思い浮かべながら、暮らす人が豊かに生きていけるような作品作りをしていきたいです。

有賀:僕は今、珠洲と備前の土を両方使いながら、一人で制作をしています。お世話になっている備前焼作家さんの窯で作品を焼成させてもらうことも決まったので、次は備前焼まつりに出店したいですね。それは備前の方に受け入れてもらったことへの「ありがとう」でもあり、珠洲の人への「しっかりやってるぜ」というメッセージでもある。まずは自分が、前を向いて背中を見せることが大事かな。

大石橋:備前焼陶友会は備前焼含む「焼締め」文化、技術の継承を目的の一つとしてセンターを運営しているので、その一翼を担ってもらえたら嬉しいですね。珠洲の3人もここに至るまでいろんな葛藤があったと思うけど、前向きに頑張っている。ともに力を携えて歩んでいきたい。

松熊:私は東日本大震災や熊本地震の発生時に現場で災害対策に携わってきた経験があり、能登半島地震を知った時も「今の自分にできることはないか」という衝動で、被災者の受け入れに向けて動いてきました。災害は誰の身にも起こり得ることで、助け合うのは当然のこと。支援する側・される側の立場は早く終わらせ、これから先何百年も珠洲と備前がお互いの特色を持って交流を続け、いつか今回の受け入れが歴史の一つとして積み上がればいいなと思っています。

備前陶芸センター
岡山県備前焼陶友会が運営する、備前焼の教育研修施設。土作りやろくろ成形、窯焚きなどの備前焼制作過程を学ぶことができます。海外からの受講生も増加中!
所在地:備前市伊部974-2
公式サイト:http://bizen-tougei.okayama.co


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この記事は、岡山県備前市の<人>と<文化>を見つめるローカルマガジン「BI-TO」に掲載されたものです。こちらから誌面もご覧いただけるのでぜひチェックください!

■目次
・ISSUE#03 備前焼から広がる世界
【AIR×備前焼】国際交流で広がる、備前焼の可能性
【産地交流×備前焼】珠洲焼の歩み、備前の地で前へ
【未来の社会×備前焼】陶器ごみから生まれた再生備前「RI-CO」
【GALLERY BAR×備前焼】文化を囲んで人が語らう移動式GALLERY BAR
・「大人のしゃべりBAR」開催レポート
・Do you know…?
・巻末コラム:肇さん、備前焼でお酒が美味しくなるって本当ですか?

2024年9月20日発行
企画・発行:BIZEN CREATIVE FARM
制作:南裕子、藤田恵、松﨑彩、吉形紗綾、加藤咲、池田涼香、藤村ノゾミ

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