【BI-TO #02】島のあかりを子どもたちに繋ぎたい 頭島あかりまつり・初代実行委員長 松﨑啓三さん
かつて、頭島のお祭りには、島民がそれぞれの家で作った行燈(あんどん)を神社境内までの道の脇にならべてお供えする風習がありました。ところが近年、人口の減少に伴いその風習もすっかり廃れ、いまではほんの数個の行燈がおいてある程度になっており、なんともさびしい限りです。
———「再び、行燈の並ぶ島の夜を再現したい」
そんな思いを込めて、島民や地元の方々、そして観光客の方々と一緒に、行燈をつくるところから参加できるイベントを企画し、2018年に始まったのが「頭島あかりまつり」です。
■心に残る島の原風景
「頭島あかりまつり」の発起人は、頭島で一棟貸しの宿「島の家 海松緑(みるみどり)」を営む松﨑啓三さん。
頭島で生まれ育った松﨑さんにとって、島に行燈のあかりが灯るその風景は子ども時代に記憶に刻まれた原風景でした。当時は、まだ海岸沿いの道が整備されておらず、神社から続く参道の目の前には砂浜が広がり、その道が行燈に照らされる様子は、まさに島のお祭りといった風情がありました。
行燈には島の子どもたちの絵や言葉が描かれていて「へえ、この子はこんな絵を描くのかぁ、とその子の顔を思い浮かべながら見るのも楽しかった」と懐かしそうに松﨑さんは語ります。
神社では巫女役の女の子が座ってみんなを迎えてくれて、御神酒を注ぎ、榊の葉にのせた生米を渡してくれます。近く赤ちゃんが産まれた家は、親子で正装して初参りに来る習慣もありました。
「当時はまだ日生と島を結ぶ橋もなかったけれど、お祭りの日は屋台もやってきて、そこで焼きそばなんかを買って、神社裏の小学校の校庭で子どもだけで遊ぶのが定番パターンでした」(松﨑さん)
ところが、少子化により島の子どもの数は減少。2016年には島の小学校の閉校も決まってお祭りの行燈の数も激減し、最後に飾られたのはたった2個……。それを見たときの寂しさに耐えかねて「行燈が並ぶあの景色をなんとか残したい」と、松﨑さんはひとり行燈を作るようになります。
しかし、行動すれば必ずそれを見てくれている人がいるもの。「お祭りをするなら歌いたい」「じゃあイベントにしよう」「予算も確保しなくちゃね」と松﨑さんのまわりに仲間が集いだし、あかり・音楽・食を集めた第1回「頭島あかりまつり」の準備がスタートしました。
■頭島あかりまつりと過ごした5年
「島のお祭りをイベントとして再開したい」と提案したとき、最初は心配の声もありました。しかし、いざ動き出すと、心配していた島の仲間も漁師も力を貸してくれて、会場の草刈には松﨑さんが想像していた以上の人が手伝いに来てくれました。
2019年はより多くの人に参加してもらうため、行燈キットを島の全世帯に配布。島外からのお客さん向けの行燈づくりワークショップも始めました。2020年はコロナで休止、2021年はオンライン開催となりましたが、あかりまつりを支える仲間の輪は徐々に広がり、大学生や若い世代も加わるようになります。
「島の外から来るお客さんにとっては、頭島と頭島で暮らす人々を知ってもらう機会、島の人にとっては今ここにないものを体験する機会になれば」と島内外から出店者を募り、2022年に3年ぶりのリアル開催を果たします。飲食・ワークショップブースの数が一気に増え、音楽ステージには島外から総勢30名を率いる邑久吹奏楽団や県内の様々なアーティストも参加。2023年には一晩で1000人以上が来場し、とても賑やかな夜となりました。
■夜の海に船を浮かべて
さらに今年は日生港から頭島を「船」でつなぐ計画も。
「去年は大勢のお客さんで賑わいましたが、来場者のアクセスが課題として残りました。島の駐車場がいっぱいで駐車できない、子どもだけでは遊びに来れない、車だとお酒を飲んで楽しめないなどの意見も多かったので、今年は“船で島に来てもらう”というアイデアを考えました」
日生港に降り立って、船に乗り込む。行燈と共に夜の海を駆け、あかりが灯る島に少しずつ近づいていく…なんだかとても特別な夜になりそうです。
さらに島の盆踊りを教えてもらう場も作る予定。実行委員会の1人である、松﨑さんの妻・千嘉さんは「消えていくものへの思いというか。本当になくなってしまう可能性があるものが目の前にあると、思いも強くなる。受け継ぐことは簡単ではないけれど、毎年のお祭りというゴールがあると、それに向けて頑張れる」と語ります。
■島にあかりを灯し続けたい
松﨑さんが最終的に思い描くのは、行灯が島を一周つなぎ、そのあかりが島全体を包みこむ風景です。
「一家に一つ行燈があって、夏が来たら『今年もこの季節が来た』と誰からともなく軒先に飾り出す。そんな景色を作りたい。いつかこのイベントが終わっても、行燈のあかりは残していきたい」
お祭り、行燈、盆踊り……時が流れるにつれ、風景や文化は変化し、時に姿を消していきます。しかしその風景に心動かされ、行動を起こす人を1人でも残せたら次世代に継ぐことができるのだと、松﨑さんと今その周りに集うメンバーが教えてくれた気がします。
「自分が子どもの頃に見たあの風景を、子どもたちの世代に受け継ぎたい。実は島の子どもの数は、今少しずつ増えてるんです。いつか彼らが大人になった時、僕たちが作ったこの景色が原風景となって『このあかりをつなぎたい』と感じてくれたらいいと思います」
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この記事は、岡山県備前市の<人>と<文化>を見つめるローカルマガジン「BI-TO」に掲載されたものです。こちらからPDFもご覧いただけるのでぜひチェックください!
■目次
・ISSUE#02 いま、島と。
-頭島:島とあかり
島のあかりを子どもたちに繋ぎたい
-別荘がつなぐ島・鴻島
-風待ちの島・大多府島
・「大人のしゃべりBAR」開催レポート
・ZINEワークショップ開催レポート
・Do you know…?
三石耐火煉瓦ビール/コチビール/山東水餃大王
・島さんぽMAP
2024年6月25日発行
発行:BIZEN CREATIVE FARM
南裕子(編集・執筆)
吉形紗綾(執筆・デザイン)
池田涼香(デザイン)
松﨑彩(デザイン)