財務省の財政破綻論が破綻

(1)西田昌司参議院議員による動画

2022年3月15日
参議院財政金融委員会質問より

発端
現職の財務省事務次官 矢野康治さんが文藝春秋(2021年10月8日発売)に寄稿した財政破綻論(いわゆる矢野論文)。
国がバラマキ(積極財政)したら、国の財政は破綻するという内容。


(2)前提となる知識

中央銀行(日銀)が行う金融政策は
主に政策金利を上げ下げして景気をコントロールすることです。

政策金利とは、景気や物価の安定など金融政策上の目的を達成するために、中央銀行(日本では日本銀行)が設定する短期金利(誘導目標金利)のことで、金融機関の預金金利や貸出金利などに影響を及ぼします。一般的に好景気によるインフレ(物価上昇)傾向になると政策金利を引き上げて経済の過熱を抑え、反対に不景気によるデフレ(物価下落)傾向になると政策金利を引き下げて経済を刺激します。

https://www.bk.mufg.jp/tameru/toushin/motto_shiritai/shittoku/kinri.html

では、政策金利を引き下げても景気が上向かない場合はどうするか?
(金利を引き下げるというのは、それ自体が金融緩和)
超低金利にして量的緩和で景気上昇を目指すとなります。

量的緩和
中央銀行が市場に供給する資金の量を増やすことで、金融市場の安定や景気回復を図る政策。
日本の場合、日銀の金融緩和政策の操作目標を「短期金利(無担保コール翌日物金利)」ではなく、日銀が金融機関等から受け入れている当座預金残高などの「量」(マネタリーベース)に置いた金融政策のことをいう。

https://www.nomura.co.jp/terms/japan/ri/ryou_kanwa.html

一方、国行政が行う金融政策は
積極財政(バラマキ)にするか、緊縮財政にするかです。


ポイント1
日本の金融政策は長らく
日銀が、超低金利で量的緩和(異次元緩和とも呼ばれる)。
行政が、緊縮財政。

ポイント2
金利と量的緩和は密接不可分な関係ということ。
金利が上がれば、量的ではなく、金利で
景気をコントロールしなさいとなるから。


(3)信用創造(日銀の考え)

西田先生は、信用創造についてどう考えるか日銀に質問。
以下、大筋で言葉を拾っていきます。

日銀の答え
民間銀行の実務は、適正な審査のもと、貸出を行う。
その際、借り手の預金口座には、同額の預金が発生し
ここに信用創造が行われる、と回答。

信用創造とは、銀行は集めた預金を元手に貸出しを行っているのではなく、銀行が貸出しの際、借り手の預金口座に貸出金相当額を入金記帳することで、銀行保有のベースマネーといった原資を事前に必要とせずに、何もないところから新たに預金通貨を生み出すことである。
この預金通貨は借り手が返済すると消滅する。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BF%A1%E7%94%A8%E5%89%B5%E9%80%A0


(4)銀行による貸付の仕訳

銀行が1000貸した
左側資産、右側負債

銀行の仕訳
貸付金1000 /  預金 1000

借りた民間の仕訳
預金 1000 /  借入金1000

ポイント
ここに、現金のやり取りが一切ない。
記帳しただけで預金は生まれる。
多くの人は、民間が預けたお金で銀行は貸し出しを行っていると思っているが、現実は違っているということ。
日銀もそれを認めている(動画3分頃


(5)財政出動の信用創造(日銀の考え)

民間銀行の実務は、適正な審査のもと、国債を購入する。
その後、政府が国債発行により調達した資金を実際に使うと
その資金は、家計や企業の預金口座に流入し
預金がその分だけ増える。
銀行の国債購入分だけ民間の預金が増えているという意味で
貸出の場合と同様、信用創造が行われているとなります。

動画4:06より


(6)国債発行で財政出動する場合の仕訳

まず、国債発行の仕訳(民間銀行が国債を引き受けた場合)
政府の仕訳(※1)
日銀当座預金 1000 / 国債 1000

銀行の仕訳
国債 1000 / 日銀当座預金 1000

次に、財政出動の仕訳(予算執行)
政府の仕訳
財政支出 1000 / 日銀当座預金 1000

民間の仕訳(※2)
預金 1000 / 売上 1000

銀行の仕訳(※3)
日銀当座預金 1000 / 預金 1000

(※1)
政府の日銀当座預金は、政府預金。

(※2)
例えば、公共事業を民間が受けた場合
民間の銀行預金は増えて、売上が生じる。

(※3)
銀行は民間からの預金が増えるので
日銀当座預金(準備預金)が増える。


国債発行と財政出動の仕訳をまとめると
以下のようになる。

政府
日銀当座預金 1000 / 国債 1000
財政支出 1000 / 日銀当座預金 1000

民間
預金 1000 / 売上 1000

銀行
国債 1000 / 日銀当座預金 1000
日銀当座預金 1000 / 預金 1000


政府の日銀当座預金と銀行の日銀当座預金は相殺できる。
すると以下のようになる。

政府
財政支出 1000 / 国債 1000

民間
預金 1000 / 売上 1000

銀行
国債 1000 / 預金 1000

(7)財政出動の信用創造(西田先生の確認)

銀行からの借り入れと同じと考えられる。
政府の負債が増えた分
民間側に預金が増えている。

つまり、財政出動についても
元手の資金がなくても預金が発生している
信用創造と全く同じことになっている。


(8)民間銀行が国債を引き受ける財源

西田先生の質問
国債を引き受ける財源は
預金者から預けられたお金ではなく
日銀当座預金(準備預金)で引き受けている。
これでよいか?

日銀の返答
貸出の場合と異なり、即座に預金が発生するわけではない。
そこで、一旦、何らかの形で購入資金を用意する必要がある。

①日銀当座預金を潤沢に保有している場合には、銀行はそれを使って国債を購入することになる。
②手元に資金がなければ短期金融市場等から資金を調達して購入。
この場合は、市場経由による借入金になる。

西田先生の質問
現在、日銀当座預金は、銀行に過剰なほど供給されている。
短期金融市場等から資金を調達する必要はありますか?

日銀の返答
日銀は現在、2%物価安定の目標の実現という金融政策運営上の理由で
イールドカーブコントロールの枠組みの下で、10年もの国債金利がゼロ%程度で推移するように、必要な金額の国債の買い入れを行っている。
日銀がこうした国債買い入れオペレーション(買いオペ)を通じて
銀行から国債を買い入れた場合
その分だけ、日銀当座預金を供給していることになる。
現在は、指摘の通りに(民間銀行に)潤沢な日銀当座預金が供給されている。
動画11:15

国債買入オペは、日本銀行が行うオペレーション(公開市場操作)の一つであり、長期国債(利付国債)を買い入れることによって金融市場に資金を供給することです。2016年(平成28年)9月に「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を導入してからは、金融市場調節方針で示された 長期金利の 操作目標を実現するよう、国債買入オペを運営しています。長期国債については、価格が上昇すると利回りは低下するという関係がありますので、例えば国債買入オペの金額を増額して市場の需給環境がタイト化すれば、通常、国債の価格は上昇し、長期金利は低下すると考えられます。

https://www.boj.or.jp/announcements/education/oshiete/seisaku/b35.htm/

西田先生の質問
日銀が政策目的としている長短金利ゼロ%付近にするために
民間銀行の決済口座である日銀当座預金に潤沢な資金提供して
日銀の政策目的を実行しているわけですね?

日銀の返答
先ほど述べたように、短期だけでなく長期金利も低くなるよう国債の買い入れを行っている。
2%の物価目標が持続的安定的に達成された場合には
現在の大規模な金融緩和を継続する必要がなくなり

長期金利には上昇圧力がかかりうることになる。
もっとも、現状は2%の物価目標には、まだ時間がかかるとみているので
引き続き大規模な金融緩和を続けることが適当と判断している

動画12:40


(9)日銀の買いオペ仕訳

日銀
国債 1000 / 日銀当座預金 1000

銀行
日銀当座預金 1000 / 国債 1000

日銀は政策目的達成のために
買いオペ等、異次元の金融緩和をしている。
この異次元の金融緩和をしている限り
銀行には、常に潤沢な日銀当座預金がある
ことは
みなさんも理解しておいてください。

ここまでが前提の話。
ここから財務省事務次官による財政破綻論がありうるのかになります。


(10)財政破綻とは、どのような意味で使っているのか?

一般には、財政破綻というと、支払い不能、デフォルトを意味する。
金利が暴騰してしまって、とんでもないことになるとか、
ハイパーインフレになってしまう等等、言われている。
財務次官は、どのような意味で財政破綻と言ったのか?

財務省(主計局)による返答
市場の信認を失うようなことになれば
金利の上昇等を通じて、市場からの資金調達が困難になる可能性が否定できない。
政府としては、市場の信認を失わないように財政健全化に取り組むことが重要と考える。

西田先生からの質問
市場の信認の具体的な意味を教えてください。

財務省による返答
国債が消化されるには、その国債に対する一定の信認がなければ消化がなされなくなる。従って、
市場の信認がなくなると、市場からの資金調達が困難になると考える。
動画17:32

西田先生からの質問
新規国債が市場で買ってもらえなかったら
国債が暴落するとか、金利が跳ね上がるとかいう話だと思うが
しかし、それは、さきほど日銀が説明したことと矛盾する。

新規国債発行は銀行が買っている。
そして、買うための資金は、日銀が買いオペで供給している。

財務省は、新規国債発行は民間預金残高などから買い支えられていると思っている。今は、民間預金残高があるからいいけど、今後、少子高齢化などで国債を買い支えられなくなるのことを心配しているのか?

財務省による返答
新規国債を銀行が買っているが、採算性や金利変動リスクを考慮して買っているのであって、無制限に国債を買えるわけではない。

西田先生からの質問
新規国債を銀行が買うお金は、日銀が供給している。
(現状であれば)新規国債が発行されたら銀行は買う。
日銀当座預金には、利息が付かない。
決算用のお金だから利息が付かないのが原則(例外もある)。
そのままたくさん所有していても意味がない。
だから、有利子の国債が発行されたら必ず買っている。

現状、日銀が異次元の金融緩和をやっている。
もしも民間銀行が国債を買わないなんてことになったら
日銀の金融政策は全くできなくなってしまう。
だから、そうならないように例外的に金利を付けたりしている。
現状はどのようになっているのか日銀に質問。

日銀による返答
日銀当座預金は決済に使われるもの。
現状は、大規模な金融緩和政策のもとで日銀当座預金残高が非常に膨れ上がった状態になっている。
金利については(例外として)、マイナス0.1%、0%、プラス0.1%の3層で付与している。

2016年(平成28年)1月に「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」が導入されたことにより、「超過準備」部分を含め、日本銀行当座預金は3階層に分割され、それぞれの階層ごとにプラス金利、ゼロ金利、マイナス金利が適用されることになりました。

日本銀行では、当座預金残高のマクロ的な増減に応じて、ゼロ金利が適用される「マクロ加算残高」を増減させ、結果的に、「政策金利残高」の規模が大きく変動しないようにしています(プラス金利が適用される残高については、ほぼ一定の値に固定される仕組みとなっています)。

https://www.boj.or.jp/announcements/education/oshiete/seisaku/b37.htm/

西田先生からの質問
このように、日銀は私と同じことを言っている。
この事実を前提に、財政破綻とはどのような意味になるのか?
日銀の話だと、(日銀の現状の金融政策からすると)新規国債が買われなくなんてことは絶対にないことになる。

国債の償還日に償還できなければ、デフォルト(債務不履行)となる。
しかし、そのような事がそもそも生じないというのが財務省の公式見解。
財務省のホームページにも、そのように書かれている。
(どのページなのか不明。このページか?
国債のデフォルトは生じないでいいんですよね?

財務省による返答
それは、2002年に格付け会社宛てに返答した内容で
2002年の時点では、自国通貨建て国債についてのデフォルトは考えられないと記述したのであり、その後、市場の信認を失うようなことがあればデフォルトもありえる。だから、財政健全化(緊縮財政)が重要と考えている。


(11)財務省の思い込みによる間違い

新規国債発行は、日銀が供給している日銀当座預金があれば、民間銀行は必ず買う。これは事実。
財務省は、新規国債を買う財源が民間の預金残高であると思っている。
これが根本的な間違い。

国債を発行すれば(そして、財政出動すれば)、民間の預金が増えるだけ。信用創造。これが現実。
財務省は何十年も間違え続けている。

では、逆に預金が減るというのは、どういうことか?
逆の処理をすれば減る。つまり、民間がお金を返した場合に減る。

民間が借入金をしない。そして、民間がお金を返済していった時に預金量が減っていく。
これはバブル崩壊時に日本で実際にあったこと。
不良債権処理ということで1年に200兆円も債務を返済させた。
いきなり市場から200兆円ものお金が消えた。
経済が悪くなるに決まってる。そこから日本は経済が成長していない。

大切なのは、世の中全体で負債が増えているかという点。←←←重要
民間の負債残高は「謎の流行病」で少し増えたが
それまでは20年間、ずっと低い水準のままだった。
つまり、信用創造していなかった。

今は、民間企業も家計も預金超過な状態になっている。
お金を借りていないということ。
それは、資金が供給されていないということ。
それが20年間続いている。

政府の方も、プライマリーバランスを黒字化しようと、まだ言っている。
プライマリーバランスを黒字化するというのは、信用創造しないというのと同じこと。

民間が預金超過していて、お金を借りない時に
政府もお金を出さないとなったらどうなるか?
経済は、あっと言う間に、どん底に落ちる。

アベノミクスで景気が良くなる兆しが出てきても
プライマリーバランスで財政を締め付けると経済は落ちるだけ。
昔のように民間がお金を借りまくっていたならPB黒字化目標でもよい。
でも、現実は、民間はお金を借りていない。

なんでこうなったかといえば
財務省(矢野さんだけでなく、全体)が、税収の範囲内で予算を組むのが正しいんだと思い込んできたから。

この思い込みは全くの間違い。
戦後昭和の時代には、高度経済成長があった。
この時代は、民間がどんどんお金を借りて投資していた。
だから政府部門が、そんなにお金を出さなくても経済は良かった。
プライマリーバランスがプラスマイナスゼロでもよかった。
つまり、政府は税収の範囲でやっていけばよかった。
当時は、民間側がどんどん供給していってくれてたから。

しかし、平成になりバブルが弾けて不良債権処理をしてからは
民間は、預金超過となり、借り入れをしなくなった。
それなのに昭和の時代と同じ財政ルールでやっていると
(PBの黒字化が必要というルール)
経済が落ち込むのは当たり前。

今の財務省は、国家の財政は赤字になったら困ります。
でも、民間は勝手にやってくださいという考え。
しかし、経済はそうではない。
国家と民間とトータルで見てお金がちゃんと投資されて使われているのか見ないといけない。
成長路線はトータルで見ないとわからない。
このような考えになっていないのは、財務省が信用創造を分かっていなかったからだ

(12)結論

財務省は、「市場の信認」がなくなれば財政破綻はありうるというが
現状の日銀の金融政策を取っている間は
銀行に潤沢な日銀当座預金があり、それで国債を購入できるので
市場の信認は問題にならないことなります。
つまり量的緩和をやってる間は、財政破綻にはならないとなります。

結局、財政破綻するかどうかという話よりも
財務省のベースにある考えが間違っているという
西田先生の主張に対して
財務省は反論できなかったという感じになりました。


(13)私見

西田先生の主張は、ごもっともでありますが
しかし、時計の針は戻せないわけであります。
もしも戻せるなら、不良債権処理をした後から
政府による積極財政を始めたら
今よりも確実に日本経済は成長していたと思います。

現実に目を向けると
途中、中断はあったものの20年前から
量的緩和を行っているわけで
本日、2022年3月20日ですが
日銀はいまだに金利を上げず、量的緩和もやめないと言っています。

西田さんの話は、今の結果に対して、財務省は間違っていたという話で
これからどうしたらよいのかについては直接は繋がりません。

2%物価目標に届いていないという、嘘くさい理由により
金利を上げずに量的緩和もやめないと日銀は言っています。
日銀は量的緩和により上がった株価をどうやって軟着陸させるのか?

コロ助とウ暗いナ問題で供給不足となったインフレ。
日銀が金利を上げないと言ったことで円安がさらにすすみ
2022年3月20日時点で、ドル円119円を超えています。
これからさらなるインフレが懸念されます。
どうするのでしょうかね?

インフレを抑えるには金利を上げるのが常套手段です。
しかし、今、金利上げることできますかね。
金利上げる=異次元緩和の終了の合図となるので
株価はかなりの確率で大きく落ちるでしょう。
誰が責任を取るのでしょうか?

西田さんは、財務省ばかり責めていましたが
私に言わせれば、ここ20年成長しなかったのは
日銀と財務省の共同責任となります。
景気よくするためとして始めた量的緩和は
株価上昇という一部の者が利益を得た形で
今、終わりに近づいています。

ここから先の話は長くなるので
非常に簡単に述べて話を終わりにします。

学校で習う三権分立は間違いです。
三権以外にも中央銀行という権力も存在しているし
中央銀行自体をコントロールできる立場の外国人勢力も存在します。
第四の権力の存在に目を向けずに
憲法を改正しようとか、平和憲法を死守せよとか言われてもね・・・

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