見出し画像

『殺人出産』感想・考察

皆様、こちらではお久しぶりです。
如何お過ごしでしょうか?

こちらは1日が24時間では足りない日々が続いております。

・ゲームやる
・ギター弾く(バンドやる)
・ゴールデン街に行く
・絵を描く
・本を読む
・SNSをやる
・株価をニラメッコする
・仕事もせねば

という日々なんですがね。「そりゃ24時間じゃあ足りないなー」としつつもどれも中途半端でしてね…。そりゃもう地獄の拷問の様に幸せな日々であります。

でも「時間がない」「お金がない」は老け込んで運気が下がりそうなので絶対に口にはしません。ただただ攻撃的に趣味に埋没し腐心するのみです。



さて、表題の『殺人出産』(著・村田沙耶香)を読みましてね。感想と考察みたいなのを書いてみたいと思います。少し前の作品です。

当方は【ネタバレの無い感想には、「面白い」「詰まらない」の二元論以外の価値が無い】と思ってます。
当ログはネタバレ前提ではあるものの、本作は作品の性質上ネタバレをしてから読んでも面白いかもしれません

例によって当書籍との無垢な出逢いを望まれてる方々はレッツブラウジングバックです。












■殺人出産の面白さのキモ

『殺人出産』本編のあとに短編『トリプル』『清潔な結婚』『余命』が3つ収録されています。

本編は「10人出産したら1人殺せる」という種の繁栄という正義のもと、殺人というタブーが赦される不穏な世界です。倫理観を動物の種としての繁栄に重きを置いた時、どんな心情が描かれるのかが本作の見所かと思います。

…っていうかそんな人殺したい?

■何か…全てが狂ってる

読んでいて生理的な嫌悪感と同時に、読むのを止められない  結末に対する好奇心がありました。個人的に結末はそんなに印象に無いのですが、狂気な世界感は歯に挟まった物の様に残り続けてます。

作内でタブーのオンパレードなんですが、タブーと好奇心は薄紙一重なのかもしれません。

「産み人」「死に人」システムだけでなくよく読むと節々が狂ってる世界で、普通の会話の中に度々出て来る【蝉チップス】の他に、【蜂の入ってるサンドイッチ】【マンゴーカレー】等、ゲテモノを散りばめて生理的な嫌悪感を高めてるのに一役買って結末への推進力を高めてる気がします。

■変化する倫理

冷静に考えると、たかだか20年でも色々な倫理観が変化しました。

かつて出会系サービスのダイヤルQ2は詐欺業者の温床と言われてましたが、まさか今では東京都が推奨する出会系アプリが出るまでに至ってます。
当時では絶対に考え付かなかったでしょう。

近年のコロナ禍真っ最中でも「マスクしない奴は頭オカシイ」と同調圧力に従わない行為は批判されていました。
最早流行りの音楽の様に、倫理も日々移りゆく物だと思った方が良さそうです。

そもそも昔はいい人の必須要素だった「一途・真面目・誠実」って、今時はプラス要素なのでしょうか…?

■短編『トリプル』について

短編の『トリプル』は性の倫理の揺れ動きを描いてて『殺人出産』の時代よりも現在に近いのではないかと思います。

主人公の弓子がカップル…いわゆる普通のセックスを目撃してショックを受けるシーンがありますね。

自分が初めてポルノAVでセックスを目撃した時…ショックというか衝撃があったのは覚えています。性が解放され簡略化された時、本物の性行為にショックを受ける…あー、分かるわ。

■短編『清潔な結婚』について

短編『清潔な結婚』は最終ページで空気が一変するのが印象的です。

最終稿の「ママー!ママー!」から夫が吐き気がこみ上げて…は夫が自分の子供である事に気づいたと受け取るのが自然でしょう。

裏で愛人と本妻、密かに申し合わせて夫に見せつけた怖さが物語の締めくくりとして素晴らしい。

その拍子に、膣の中からごぼりと夫の精液が出てくる感触がした。

殺人出産・清潔な結婚最終稿より

夫・妻の心情に言及は無いものの、妻は妊娠を拒否した様子が上記最後の一文で伺えます。男性の作家にこんな表現は出来ないのでは?
個人的には本短編が一番好きでした。

■だから本は楽しい

短編も含めて当書籍は【死・性】の倫理の壁を取り払った世界はどうなるか!?という描写に挑戦をしています。倫理観とのすり合わせで「これ…どういう事?」と問い続けながら読むのが楽しい作品でした。

3作共通して、自分の心の中で描写されるのは人物絵ではなく「この世界の奴等はどんな顔をして生活しているのか?」と世界観念が描写されていることに気づきました。

例えば冒頭に紫外線をやたらを気にする描写がありますが、進行には影響無いのに温暖化が進行した未来の世界であることを匂わせます。当方は村田沙耶香氏の作品は初めてですが、世界の描写に優れた先生かと思います。

かような作品は映像化をすると、倫理観に人物が代入されてしまい「○○が可哀想」など、フォーカスが狭くなり物語が矮小化する可能性があります。

詰まり絶対に映像化してはいけない作品で(色々無理だろうて)、逆に「だから本は楽しい」と思えるような作品でしたねー。

誰か殺したい時…、貴方は誰を思い浮かべますか??ではまたお会いしましょう。

いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集