【ショートショート】歩きスマホ
「あー、また歩きスマホだ」
雑踏の中、僕は歩きスマホを見つけた。インターネットの普及や発達によって、世界中にスマホが溢れているが、歩きスマホを見るようになったのは最近になってからだ。
「大丈夫?迷子?」
僕は1匹で迷子になっている”歩きスマホ”に声をかけた。
「そうなんです。持ち主とはぐれちゃって…」
かすれた機械音からも歩きスマホが困っているのはすぐにわかる。
「じゃあ、一緒に持ち主を探そうか。君の名前なんて言うの?」
「”あっぷるん”です」
「へえ、可愛い名前つけてもらったんだね」
「あ、ありがとうございます」
照れているのか、体が少し熱くなっている。
「はぐれた場所は覚えてる?」
「はい、どこかの建物に入ろうとしたときにカバンから落ちちゃって」
「どんな建物かわかる?」
「それがわからなくて。ただ、人がいっぱい並んでいた気がします」
今日ここらへんで行列ができるお店は1つしかない。”携帯ショップ”だ。
「ちょっと、君のデータを見せてもらってもいい?」
そういってスマホのデータを見せてもらったが、データはスマホの名前以外キレイさっぱり消去されていた。簡単に安くスマホが手に入るようになってから、スマホのポイ捨てが増えているが、この子もポイ捨てされたのだろう。
「見せてくれてありがとう。ちょっと僕の家に来ない?」
「え、でも…。いなくなって心配してるかもしれないから…」
その言葉に思わず顔を背けてしまった。
「あ、そういうことですか。僕、捨てられたんですね…」
「うん…」
「昨日寝て起きたら、急に体が軽くなったと思ったんですけど、データを消されてたんですね。だから、持ち主の名前も思い出せなかったんだ」
落ち込むスマホの頭をなでようとしたが、もうさっきのような熱はない。
しばらく沈黙が続いた後、僕は”あっぷるん”に告げた。
「これからは僕と一緒に暮らさない?」
「でも…。あなただって他のスマホがいるんじゃないですか?」
「ううん、僕のスマホは2年前に迷子になって。歩いてるときに事故にあっちゃったんだ」
「そうだったんですか…。だから、私が迷子になってるのを見て、すぐに助けようと声をかけてくれたんですね」
「うん、もう誰も僕と同じ想いをしてほしくないから」
そんな想いを伝えて”あっぷるん”を見ると、震えているように見えた。
「すみません、感動してバイブ機能が作動しちゃって。一緒に暮らしてもいいですか?」
「もちろんだよ。これからは僕との思い出でデータをいっぱいにしていこう」
そういって”あっぷるん”を持ち上げると、体が少し熱くなっていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
noteでの小説執筆だけでなく、kindle出版やYouTubeにも挑戦してみようと思い、8月28日に【繊細さんの疲れない旅行術】という本をkindleで出版しました。
繊細という特徴を持つ、いわゆる「HSP」の私でも疲れずに楽しめる旅行術やオススメホテル・カフェを写真付きで掲載しています。
ショートショートとは違いますが、よければぜひ手に取ってみてください😊