Sweet Stories Scrap マンスリー Vol.11 2021/11

 だいたい何事においてもそうなんだけど、この月イチ企画も締切間際になって慌てて書くわけよ。面白い作品には「スキ」付けておいて付箋代わりにはしてるんだけど、まあそんなのは稀なほうでさ。でも締切間際のほうが切羽詰まってるからなのか、自分が気に入るであろう作品を嗅ぎ分ける勘の働きが良いような気がするんだよなあ。ほいじゃあ、今月の3作品。

たいていはバーにいるから/にこ

 これはいつものように乱暴にぶった切るのに躊躇する。こんなのこのレビュー企画始まって以来じゃないかな。え、何なん?どういうこと?ってところが結構出てくる。ヤー・チャイカって何の暗喩メタファーなんやろ?

 こんな風に自分本位の思わせぶりな単語を仕込んだ作品は珍しくないけど、大抵はあんまり上手く行ってなくて、読んでて本当に何のことやらさっぱりわからなくて読む気がなくなるものも多い。でも、この作品は違うんだよねえ。訳わかんないまま読めちゃうのよ最後まで。

 ストーリーの展開には必要ではないように思える言葉が、文章の中にたくさん浮かんでる。まるで、酔っぱらって書かれたかのように(ほんとにそうなのかもしれないけど)。何か裏に伏線があるんじゃないか。自分は前提となるエピソードを知らないだけなんじゃないか。そう思うと、自分は読者として教養が足りないような不思議な気分にもなった。不思議な作品。

特別なクジラ。/いとうゆみ

 これぞショート・ショート。星新一を思わせる簡潔さ。これぐらい短くないとね。宇宙が出てきて、少しSFフレーバーを効かせてるところも。

 でもね。これ話の中段に謎の一文があるのよ。これが曲者だと思う。

そのあとに姉が遠くに行ってしまうことは知っていたから。

 この部分をどう解釈するかで物語のテイストがすごく変わってくる。前段と後段の話には時間差がある(とワシは思う)。たぶん数年から十数年ぐらいの。姉が遠くに行ってしまう「そのあと」までの時間か。あるいはダブル・ミーニングで、その「すぐ」あとに姉は遠くに行ってしまい、さらにその何年も後になって…ということなのかもしれない。

 え?知ってたの?って思うともう一度読み返したくなる。ショートショートだから何度でも読める。そしてジワジワ来る。単純な話のようでいてかなり味わい深い。かなり、おセンチで秋の夜長向き。いや、ショートショートだからすぐに読み終わるんで夜長には向いてないか。

 ちなみにエンディングに出てくる52ヘルツで鳴くクジラの話も余談として興味深い。この話に着想を得て作ったのかなあなんて考えるのも面白い。短い話やのに、いろいろ楽しめて奥が深いスルメ的な作品(褒めてます!)

アキちゃんへの手紙/サトウ純子

 こっちは特にヒネリのない話――なんだけど。何でかなあ、グッとくるんよねえ。おっちゃんも歳取ったなあ。たぶん、前半のストーリーが能天気に展開してるせいなのかも。ほんとにどこの誰にでもあるような幼馴染との交友が明るく書かれていて、その後にくる衝撃がずどーんと来るのよ。

 こういうやるせない話ってのは、やっぱり秋ですわな。ひょっとして実話のエッセイかなとも思ったりもしますが。私の場合は、こういう話を読むとしんみりもするんですけど、「自分は精一杯頑張らんとね。だって俺は生きてるんやから」って気分になるほうですね。

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 では、今回はこの辺で。

 お別れの曲は冒頭の作品にちなんで、この曲で。

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noteマガジン「Sweet Stories Scrap(SSS)」はnoteに発表された短編小説から、独断と偏見で選ぶ『ステキな小説のスクラップブック』。月イチで3つ選んで批評を加えて配信中。感想コメントもお待ちしておるでyo😁

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