![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/24492095/rectangle_large_type_2_9004f5d72cc4f8c2b64dc7a49afe3f24.png?width=1200)
渡り鳥。
「もう、欲しいものなんか無いんだ。本当に欲しいのは…」
彼は確かにそう言った。
新宿の伊勢丹のメンズブランド店内。
背中を押しやり、フッと笑って、店員に合図をして、その場を離れた。
戻って、会計を済ませて、少し後ろを歩く紙袋を抱えた彼は、「何で?」をふて腐れ気味に繰り返す。
『キミは可愛いから、弟みたいに可愛い子に、着せ替え人形みたいな扱いをしても、それ普通でしょう?』
勢いよく走り寄って来て、両肩を掴まれて、
「弟だったら、深い関係になってないよね?」とムキになる顔まで『美しいな』と眺めていた。
ファッション業界で仕事を通じて知り合った、大学生の彼。
わたしの若い"燕"だ。
「Cafe La Milleでお茶したい…」と彼が目配せして来る。
『バーニーズで香水を買いたいから、付き合ってくれるなら、その後行こう』と言ったら、子供みたいに笑顔になるのだから…
無知で未熟な男性は慈しむもの。(愛しむともいう)
出会ってから、半年以上が経過していた。
若さはいろんな意味で、素晴らしい。
好奇心旺盛だから、素直で吸収もはやい。
個人にもよる所だが、わたしの"燕"は賢かった。
わたしの本棚から、沢山の本や、映画を貪り、
わたしの好みから、バイト代から、素朴なプレゼントをくれたり、
わたしにどのような態度を取れば、相手にしてもらって、関心を向けてもらえるのかを探る。
わたしが教えたあのことも、男としてすっかり馴染んで、
女がどのタイミングで、どのように触れられれば、どのように感じるかも覚えて応じる。
「何で、部屋の合鍵渡してくれないの…?」
『ひとりが好きだから。四六時中、自分以外の人が、
部屋に居るなんて、息が詰まるから嫌』
「人を好きになるって、自分以外の人にも優しく出来るってことなんじゃないかな…?」
『会いたいときに会えれば良くない?』
男女が逆転している。
考えてたより時間は迫っていて、終わりがみえる。
突き進んでも、痛手を負うだけ。
彼は、突然、わたしの行動を管理したがり、洗濯物や食事のことや、休日の過ごし方に、口を挟むようになっていた。
自分がお母さんみたいになるのも嫌だし、ましてなれない。彼にお母さんみたいに、指示されるのもまっぴら御免。
試着室に、彼を預けた後、新宿三丁目の歩道を歩きながら、【ことの終わり】を、改めて直視せざるを得ない状況だと、気づいた。
「ねぇ、愛してるなら…」
『愛してる、なんて簡単に言うものじゃないよ』
愛ってなんだろう。
#エッセイ #ノンフィクション #年下 #若い燕
#新宿三丁目 #新宿伊勢丹 #メンズ館 #愛ってなんだろう #カフェラミル #終わり #弟 #女の傲慢な心理 #20代後半の記憶 #恋愛