Automatic。
スタイリストの補助をしていた頃。
衣装を運び込む作業の途中で、
ある女性と少女を見かけた。
少し手前で止まり、通路を譲った。
二人は、ドアを開けられて、入室して行く。
小柄ながら、背筋の伸びたスタイル
あの強い眼差し。自分の親世代。
リアルタイムには知らないけど、有名な歌手だと
いうことは分かっていた。
その後ろから、線の細い、大人びた少女が、
戸惑いを隠せないような雰囲気で付いて行く。
それが、【宇多田ヒカルだった】と知ったのは、
「Automatic」が巷で流れて、話題になった時だった。
どれほど時間が経ったのか。
世間で、歌姫の称号を得て、水を得た魚のように、
業界を泳ぎ回りながら、母親譲りの強さを持ち、疲弊した少女は、大人になっていった。
次に少女をテレビ画面で観た時、
まさかの霊柩車の助手席だった。
喪服姿は、ショートボブの髪をさらに漆黒と光の中で輝かせ、
少女は大人になっていた。
フラッシュが一斉に、彼女を囲む。
不謹慎にも、とても美しかった…。
悲しさに、チカラを失ったような瞳の奥で、喪失感から発された
【解放と希望】を確かに感じたのは、
どうしてなのか?
分からない。
家族のことは、外からは見えない。皆んなそう。
親子関係だって、偶然が偶然を呼んだ根拠のないものかも知れないし、「運命」などという重さでも片付けられない。
【あの親から生まれたあの子】という繋がりの、厚かましくもファニーな鎖に苦しむ場合だってある。
母と娘なら、尚更、同性同士という共感と距離に、
互いを傷つけ合うこともある。
生きている間は、騒がしく煩わしい。
じゃあ永遠に【生死で別つ】ならば…
一方的に切られた先には一体何がある。
焼ける痛みを抱えて苦しみながら、離れてみたことによって、
生じる感情が手に取るように、急に【循環し出す】瞬間がある。
人生を知らされる分岐点。
全ては、原点に回帰して行く。
彼女の楽曲を聴くたびに、その何かを受け取り、
どこまでも心を軽くし、今現在を寛容し、素直に
生きることの意義に想いを馳せる。
高速なエレベーターを降りずに。
希望。
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