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犬好きさんはぜひ読んでほしい『たまさんちのホゴイヌ』~"かわいそう"から"かわいい”へ

動物福祉の向上が叫ばれるようなった今、その必要性を伝えるために犬猫の殺処分や虐待、飼育放棄などの現状が取りざたされ、その生々しい映像などを見る機会も増えました。もちろん、現状を知らなければ問題にもあげられないので改善されることもないわけですが、私はどうも苦手に感じてしまうのです。

その理由は
・そもそも見ていると辛すぎて苦しくなる
・怒りの感情が込みあがる
・問題が大きすぎて自分にできることが見つからないように思ってしまう
負の感情しかありません。目を背けたくなるし、精神衛生上、関りをもたない方が良さそうな気さえしてしまうのです。

でも、私は犬が好きだから、犬を助けたいという気持ちを抑えられません。それでインスタグラムで保護犬活動支援を始めました。活動の狙いは人々の意識に動物福祉の考えを浸透させること。犬の絵を描いたり、ハンドメイドグッズを販売したりしてその売り上げを保護団体へ寄付をする。保護犬を家族に迎えた飼い主さんのインタビューや、動物福祉について考えるきっかけになる本やイベントの紹介をする。こんな感じで、私の活動からは負の感情は起こらないようにしています。動物福祉を向上させるには、「犬が好き!」、「犬はなんてかわいいの!」という感情をもっともっと大きくすればいいんじゃないかな、と思うのです。

だけど、私の小さな取り組みでは、犬を助けることはできていません。先日、初めて3万円ほどの寄付をすることができましたが、それで何頭の命を救えたでしょうか。きっとなんとかボランティアさんたちのトイレシートやドッグフード代になったくらいなのでしょう。歯がゆくて仕方ないですし、自分の無力さを痛感します。

そんなときに、私が伝えたいこと、いえそれ以上の「犬が好きだ、犬はかわいい」という気持ちを膨らませてくれる本に出会いました。

それがこちら。

『たまさんちのホゴイヌ』著:tamtam タムタム(世界文化社)

これは個人で保健所から引き出した犬猫の里親を探す預かりボランティアをしている著者タムタムさんが、今までに出会った犬たちとのエピソードを綴ったエッセイ漫画です。タムタムさんの狙いは、暗くて怖いイメージを持たれがちな「保護」や「愛護」は、実は知ってみると楽しいこともあるんだよ、と伝えること。おそらくそのメッセージは、タムタムさんの想像以上に読者の心に染み入る本になっていると思います。なぜなら、タムタムさんの犬たちに対する姿勢(それはタムタムさんが意識していないところであっても)すべてに犬たちを包み込むような温かい愛を感じるからです。

これは、犬と暮らすすべての人におすすめしたい本です。この本に描かれているタムタムさんの深い動物愛は、実は自分の中にあるものと同じものであることに気づかされ、これを機に、人々が改めて動物福祉について考えるきっかけになるのではないかと思います。私がそう思ったのは以下5つの視点からです。

① 犬たちのちょっとしたしぐさから過去を想像させる

人間によって心に深い傷を負った犬たちは、再び人間に心を開くまでに時間を要します。ずっと傷を負ったままの犬たちもいるでしょう。タムタムさんが撫でようとして伸ばした手に怯えた犬、固まってケージから出てこない犬。これらの描写だけで、過去にどんなことが起こっていたかが容易に想像できます。実際に何があったのかまで知らなくても(悲惨な映像を見なくても)十分な戒めとなり、犬たちに二度とこんな思いをさせてはいけないと思うはずです。

しぐさから過去の体験を想像する


② 犬のペースに合わせて寄り添う

タムタムさんは、傷ついた犬たちを「何とかして助けよう」と積極的にはたらきかけているのではなく、犬たちが自ら心を開くのを「静かに待って」あげています。人間のペースではなく、犬たちのペースで新しい環境に馴染み、再び安心して過ごせるようになるよう寄り添ってあげている様子があちこちに描かれています。

とにかく心を開くのを待つ


③ 犬に聴くのではなく、犬から話をさせる

タムタムさんはベンジャミン・ホフの言葉「動物に話しかける人はいっぱいいる。だけど、聴く人はあまりいない。そこが問題なんだ」という言葉を引用し、自らの行動を反省していますが、私が思うに、タムタムさんは犬たちに話を聞こうとはしていません。「どうしたの?」、「何がほしいの?」、「何をしてほしいの?」など、犬たちに接近していくのではなく、犬たちの行動をただ受け入れ、その心情を想像し、犬たちが自ら話してくれるようになるのを待っているのです。

いつかきっと犬の方から話をしてくれる


④「かわいそう」ではなく「かわいい」

傷ついた犬たちを見るとつい「かわいそう」と思ってしまいがちですが、タムタムさんはあえてそう思わないようにしています。なぜなら、過去は過去でしかなく、未来はいくらでも切り開くことができる、と考えるからです。犬の一生は短いのです。過去に目を向けるより、今に目を向け、残りの犬生を穏やかで、幸せな日々にしてあげたい。人間は犬たちを「かわいいかわいい」と愛でることで幸せをもらえばいいと、私も思います。

「かわいそう」からは何も始まらない


⑤ かわいいのは「外見」ではなく「個」にある

タムタムさんは犬たちの心の変化が現れる小さな行動の一つひとつに胸をキュンキュンさせています。とにかく犬たちがかわいくて仕方ない、といった様子があちこちに描かれています。保護された犬たちの中には病気や怪我でやせこけていたり傷だらけになっている子も多くいます。けれどこの本にはタムタムさんがそんな外見に同情したり憐れんだり、ということは描かれてなく、犬たちが一瞬見せてくれる内面、心の変化に激しく胸をときめかせています。犬好きなら誰もが共感できる心情でしょう。

そこにいてくれることが大切
小さな変化に胸をときめかす


この本を読むと、どれだけ自分が犬を好きか、改めて感じることができます。犬を愛しいと思えば思うほど、犬を大切にしたいという気持ちは強くなり、自ずと日本の動物福祉の現状に意識がいくことでしょう。犬に携わる仕事をしている人も、一般家庭の飼い主も、いつか犬と暮らしたいと思っている人も、一人ひとりが犬を大事に思い、「大切にしなければいけないんだ」と強く意識することで、日本の動物福祉は向上していくのだと私は思っています。

この本は犬のかわいさにときめいた自分を思い出させ、「あなたも犬が好きなのね」と笑いかけてくれ、今まで以上に犬を好きになる、そんな本ですす。

ぜひ読んでみてください。

※ちなみに、この本の売り上げは(確かタムタムさんの意向で全額)、保護犬の支援活動などを行っている団体に寄付されます。

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びしばし。
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