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旅するビスケット。一年に一度紅茶とビスケットを合わせる日。
昨日10月10日は私にとって忘れられない日だ。かつて私には歳の離れた親友がいた。それは祖母の存在。昨日はそんな祖母の誕生日だった。
祖母であり、尊敬する人物であり女性である彼女。私の永遠の親友。なんでも話してきたし、どこに行くにも一緒で、学生の頃初めて一人暮らしした時は文通までしていた。一緒にいる時間はhappyと笑顔が溢れていたし時間が経つのがあっという間だった。
そんな彼女がもう同じ世界にいないなんていまだに信じられない。彼女のことを一時も忘れたことはないけれど、誕生日と命日は余計に思い出してしまう。大事な人を奪う病気って本当に残酷だ。
毎年10月10日がきて目が覚めると、いつも1番先に頭に浮かぶのは今日が彼女の誕生日だと言うこと。生きていたら何歳だったんだなと天井を見上げながら考える。何年経っても変わらない。
私達は常にべったりくっついていて、会えばおしゃべりがとまらなかった。大事な話からたわいもない話までなんでも話した。
甘い物好きの彼女はいつも何かスイーツを食べながら話そうとお茶会に誘ってくれた。同じ家に住んではいなかったので、彼女からお茶会の電話がくるのが楽しみだったし、お茶会の日はわくわくしながら彼女の家へ向かった。
甘いものに加えて、彼女は紅茶が大好きだった。一方で私は絶対コーヒー党。仲がよくてもここだけはお互い断固として譲らない。家でのお茶会も必ず祖母は紅茶とコーヒーの両方を淹れた。幼少期のまだコーヒーを飲めない時は紅茶を飲んでいた私も、コーヒーの味を知ってしまってからはこれが定番のパターン。
私は幼い頃からイギリス文学が大好きで、著名な作家の作品はほとんど読み倒した。そのため、幼い時からイギリスに関心があり、ヨーロッパに行くのならば、絶対に1番先に行くのはイギリスだと決めていた。
大学生になりアルバイトで自分で資金を稼げるようになり、貯金を貯めて決意通りイギリスに訪れた。昔から憧れていた小説の場であるイギリスは見るもの全てが素晴らしかった。そんなイギリスは紅茶の聖地でもあった。街には有名な紅茶のお店やメーカーがたくさんあり、目の前に広がる種類豊富な品々に紅茶好きにはたまらないだろうと思った。そんな山のような紅茶を眺めながらやはり思い浮かぶのは祖母の姿で、見つけるたびに自分は飲まない紅茶を手当たり次第何種類も購入した。
自分用には大好きなショートブレット。もちろん祖母とのお茶会でいただこうと考えていた。帰国してすぐ、旅行のたまった話をするべく早速お茶会が開催された。
祖母は山程買ってきた紅茶に大喜び。一方で、ショートブレットはあまり好みではなかったようだ。口の水分を奪われるのが戦時中に食べた芋や配給のパンを思い出すようで、一つだけ食べると紅茶はこちらといただくと大好きな羊羹をひっぱりだしてきた。私は逆にショートブレットはとても好き。むしろあのぱさついた感じや素朴な味がたまらない。こんな風に食べ物や飲み物の趣味は違うけれど私達は仲がよかった。
先日ビスケットの定義について書いていた際、ビスケットがイギリス発祥だという話をしながらふとこのエピソードを思い出した。いつか紅茶の聖地に私が連れて行くから、イギリスで一緒にお茶会をしようと約束したのに叶えられなかった。そんな話をする度、イギリスにはビスケット以外においしいスイーツはあるかしらという彼女と、イギリスにも紅茶に負けないおいしいコーヒーがあるといいなという私の発言にお互い笑い合ったものだ。彼女との旅行はさぞ楽しかったに違いない。
常にコーヒー派の私も、祖母の誕生日だけは彼女のためにあたたかい紅茶を用意する。紅茶とビスケット。一年で一度だけする組み合わせ。もちろん横には食べないけれど羊羹も置いておく。
ショートブレットをかじりながら、目を閉じながら紅茶の味に感動する彼女の姿を思い出す。
祖母に出来なかった孝行を両親にすることが今の私の目標だ。昨日は両親にディナーをご馳走した。並んだショートブレットと紅茶は、もう後悔はしないよう大好きな人に精一杯尽くすことの重要さを改めて教えてくれる。祖母に敬意とお誕生日のお祝いを、両親に感謝しながら過ごした1日だった。