「ユリシーズ」
沖は紺碧、しかめっ面で空と水を区別していた、
ぼんやり眺めているだけじゃ、それはふたつにわかれなかった、
君は隣で遥か南を漂っている、幽霊船を空想してた、
絶える間際の羽虫がもがく、きれいではない黒い点の一粒を、
夏の終わりに話してくれた、そんな気分だったんだろう、
どうでもいいことだけどって、振り返るのを億劫そうに、
君は照れてはしゃぐの嫌った、真上でお日様見てるからって、
星の時間になるまでずっと、唇だって隠してた、
そんな日々を繰り返す、なにもないのに鮮やかな、
色とりどりの夏のこと、僕らは陽灼けた頬で笑ってた、
冬の日には夏を思い、夏になれば冬の風のことを思う、
倒れた瓶には塩漬けオリーヴふたつが残されている、
こぼれた液体、狙うカモメが僕らの上を周遊してた、
君は隣で遥か遠くを漂っている、海賊船を思い描いた、
調子っ外れの船唄と、絵空事の宝島、
好きなように世界地図を書き換えられた冒険譚、
そんなことを夏の終わりに話してくれた、
どうでもいいことだけどって、振り返るのを億劫そうに、
幸福な夢を見ていた、そんな気分さ、
二度はない、瞼でさえ白く霞んでそれが本当だったかどうか、
そんな幸福な夏のこと、君はいまも憶えてるかな、
忘れたいことは憶えているのに、すてきなことは砂のように手のひらからこぼれてしまう、
昨日書いた手紙は海に浮かべた葉のうえに、彼方へ届けと手を合わせ、
紺碧から立ち上がる、永遠の満ち欠けよ、
冬を間近に、はるか南を白い月が浮き上がる、
だからいっそ忘れてしまおう、
雪が降る前、すする葡萄酒、
photograph and words by billy.
#ほろ酔い文学
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