George Harliono 「月光」
無心に弾くピアノの音と姿が何とも魅力的で、目が離せなくなった。彼がプロになる前の、いわゆる"駅ピアノ"である。
YouTubeを見始めた頃。
公園、駅、街角…ピアノのあるところにはどこにでも出かけて行く11歳。先に弾いている人がいれば側で待ち構えて、終わるとサッと椅子にすべりこむ。弾きたくてたまらない!ピアノが楽しくてたまらない!といった後ろ姿をカメラが捉える。
超難曲と言われる、Liszt の La Campanella も楽しげに、こともなげに弾きこなす。
ある日の公園。ピアノの脇で若者達が卓球に興じている。少年が弾き始めても、全く興味がない。
Moonlight Sonata に卓球の音が絡む。同じ場所に居合わせても、違う世界にいる彼ら。
通りすがりの大人達が立ち止まる。だんだん人垣が出来る。少年は一心に弾き続ける。
大好きなBeethoven。雨が降り始めようが、気にしない。人々は傘をさして見続ける。
気づけば、あの卓球の若者が、ラケットを置いてじっと聴き入っている。やがてスマホで撮り始め、終わると大きく拍手🙌
若者の素の反応がとてもいい。若者の中で起きている事を想像してみる。
終わって拍手を受けても、どこかキョトンとしている少年の様子が微笑ましい。
通りかかった人たちは、こんな少年が凄まじい集中力で弾く、どこで聴いたよりも魅力的な「月光」に驚嘆して動けなくなったに違いない。
雨の公園でのパフォーマンスへのアクセス数は、930万回に迫るが、私も30回は覗いている。
恩田陸著「蜜蜂と遠雷」を読んだ時、風間塵はこの子だ、と思った。
今、20代に入った彼は、師の元で勉学を続けながら、プロのピアニストとして世界各国のオーケストラと共演、来日公演もしている。
久々にYouTubeを見ると、画面下に、以前は無かったこんな文が。
This is a video of me playing when I was 11 years old. Check out my channel to see what I am doing now!
(これは私が11歳の時の演奏です。今の演奏活動のチャンネルも見てくださいね!)
コンサートホールでのプロの演奏より、11歳のゲリラ的パフォーマンスの方が、断然アクセス数が多いようだ。
成長過程のある時期、子供が圧倒的な魅力を放つことがある。Harliono 自身、当時の無心の演奏には敵わないと気付いているのではないか。
技巧とは別次元の、人の心に響く無垢のパワー。大人になったHarlionoの前に立ちはだかる、最強のライバルかも知れない。