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映画「ボレロ 永遠の旋律」
ラヴェルのボレロを聴く時はいつも、映像が浮かぶ。
1984年、サラエボ冬季オリンピックアイスダンスで、イギリスのトービル&ディーンが選んだ曲がボレロだった。あの時初めて、この曲を作曲したモーリス・ラヴェルの名を知った。
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観客が息を呑む 官能的な圧巻の演技だった
モーリス・ベジャール振り付け、ジョルジュ・ドンやシルヴィ・ギエムのボレロも記憶から離れることはない。何度見ても心が揺さぶられる。
ジョルジュ・ドンは映画「愛と哀しみのボレロ」(1981)で、旧ソビエトからフランスに亡命した、ヌレエフがモデルとされる天才ダンサーを演じ、ボレロを踊った。
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この年のこの日 12月31日の日本公演をもって 引退
男女の違いなど超越した、鍛え抜かれた崇高なまでに美しい肉体が、暗闇の中で動き出す。赤い円卓の上に立つことができるのは、ベジャールに許されたダンサーだけとされている。
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というわけで、楽しみにしていた映画である。
映画の冒頭、ラヴェルは作曲の依頼者を、重厚な機械が同じリズムの音を出す工場に連れて行くシーンがある。ボレロに終始流れる重低音は、幼い頃からエンジニアだった父と共に馴染んだ、あの機械的なリズムだ、と監督は観る者に想起させる。
作曲家ラヴェルのことはほとんど知らなかった。映画の中で、多くの曲が流れているが、ボレロ以外で聴いた記憶があるのは一曲だけだった。
暗めの室内、超アップが多い画面、人物の関係が掴めない序盤は、かなりストレスフルだった。多分エスプリの効いているフランス語の会話も、字数制限のあるシンプルな日本語ではもどかしい。
若き作曲家ラヴェルは登竜門とされる賞を目指して挑むが、なかなか評価されない。辛辣な批評家にドビュッシーと比べられ、貶される。
ある日、オペラ座の人気ダンサーで振付師のイダから作曲を依頼され、引き受けたものの曲想が浮かばず、長い産みの苦しみが始まる。
ようやく書き上げたバレエ曲は、スネアドラムが刻むリズムに、たった2つの旋律を楽器を変えながらそれぞれ9回繰り返す、という画期的な構成。
曲を気に入ったイダは、娼館を想起させる舞台設定とエロティックな振り付けのリハーサルを作曲家に披露。ラヴェルは衝撃を受け、口論となる。機械的な音の繋がりが、思いがけない形で表現されたことへの怒り。
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これから観る方のために細かい所は省略。
作曲家の意向も取り入れての、イダの初日公演は、拍手喝采を受け、大成功だった。ラヴェルも、この曲の旋律には官能を呼び起こす所があるかも知れない、と認める。
映画の終盤、円陣を組んだオーケストラの中央でラヴェルが指揮台に立つ。
晩年、記憶の混濁でボレロを自分が作曲したことさえ分からなくなったラヴェルは、脳腫瘍の疑いで手術した病院で亡くなった。
モノトーンのオーケストラのシーンは、作曲家の死後も生き続け、愛される稀有な曲の指揮をとらせるために、監督が天国から呼び寄せたかのようだ。
オーケストラの間を縫って、豹のような跳躍でしなやかに踊るダンサーのシルエットは、死後の世界からラヴェルと共に降りてきた亡者のようにも見える、元パリオペラ座のエトワール、フランソワ・アリュ。
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躍動感ある素晴らしいダンスだったけれど、ベジャールが染み付いてしまったファンには、ボレロを踊るならやっぱり体を削ぎ落とさないとな、と思ってしまった。
結婚をしなかった彼の周りには、息子を愛してやまなかった母、伝説的ピアニストで相談相手だった親友のマルグリット、互いに惹かれながらプラトニックな関係が続くミシア、ダンス曲を依頼したロシア人ダンサー&振付師イダ、肌を触れることは無い娼婦、そしてラヴェルのピアノで流行り歌を楽しそうに歌ってラヴェルに旋律の着想を与えた家政婦ルヴロ夫人、など重要な役回りを果たした女性たちがいた。
虚弱体質のコンプレックス、成就しなかった愛、ボレロの大成功がもたらした新たな創作上の苦悩、病…と苦難に満ちた彼の生涯の物語に、良い後味を残す所である。
🥁 🎺 💃
ラヴェルがボレロを書き上げておよそ100年。
「ボレロは今、世界で15分に一回演奏されている」とタイトルバックの字幕にあった。
プロのオーケストラや愛好家のグループによる、各地のFlashmob を、YouTubeで見ることができる。
駅構内など、人が行き交う場所で、ひとりがやおらスネアドラムでリズムを刻み始める。続いてどこからかフルートの旋律が近づき、エスカレーターでクラリネット奏者が演奏しながら上がってくる…
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終盤 指揮者が大太鼓をバーンと叩いて 曲は砕け散る
今日も世界のどこかで始まるボレロのflashmob、映画館から帰って、久しぶりに覗いた。
実は昨日、午後の上映に合わせて行ったのだが、何と満席!1回目からチケットは完売だったとか。映画館に人が戻って来たのか、この映画が引き寄せるのか。お盆休みの人も多かったのだろう。いずれにしても喜ばしい。
最終上映まで待つのも何なので、翌日の初回を予約して引き返したのである。
監督/脚色: アンヌ・フォンテーヌ
出演: ラファエル・ペルソナ ドリア・ティリエ
立川 高島屋SC館 8. 13