五箇公一著『クワガタムシが語る生物多様性』~虫の本と思って読んでみたら、むずかしい生物多様性をわかりやすく解説した本だった!
『サイレント・アース~昆虫たちの「沈黙の春」』から『クワガタムシが語る生物多様性』に読み進む
先日、『サイレント・アース~昆虫たちの「沈黙の春」』から学んだこと、特に環境行動についてnoteにまとめました。本の最後の所で、五箇公一氏が「グルーソン博士との思い出」という題で解説を書いています。五箇氏は国立環境研究所(つくば市)の研究者です。サングラスに皮ジャンという独特の服装で、テレビ、雑誌などで、外来種や生物多様性の解説者として登場することも多いのでご存じの方も多いでしょう。
この解説では、本文の補足や日本の状況をかなり具体的に述べています。内容もわかりやすかったです。特に、OECDが求めるグローバルな農薬のリスク評価が、日本の生物多様性に悪影響を与えるという指摘がこころに残りました。
訳者の藤原氏は「解説」を受けた「あとがき」で、五箇氏の著書『クワガタムシが語る生物多様性』(集英社クリエイティブe単行本、2018)から次の部分を引用していました。
とても共感できる言葉だったので、さっそく注文してみました。『クワガタムシが語る生物多様性』とあるので、クワガタムシのことが主な内容かと読み始めると、生物多様性と著者が関わった生物について生物多様性と関連させながら語っている、お勧めできる本でした。むずかしい内容をわかりやすく解説していて、大人はもとより高校生が読むには丁度いいです。今の生物多様性保全をとりまく社会的な問題点が指摘され、文系の高校生も刺激を受けるはずです。
『クワガタムシが語る生物多様性』の内容
紙の書籍は2010年に刊行されています。購入したのは電子書籍です。本の最後に電子書籍版の追補(2018)があります。
全体は次の7章から成っています。
第1章「生物多様性」とは何か?
第2章 生物多様性が危ない
第3章 クワガタムシが語る生物多様性
第4章 マルハナバチが語る生物多様性
第5章 ミジンコが語る生物多様性
第6章 ダニが語る生物多様性
第7章 カエルが語る生物多様性
第3章を書名にしているので、クワガタムシのことが中心かと勘違いしてしまいそうですが、まず、生物多様性の説明と現状について触れ、次の章から著者が今まで関わってきた生物について、生物多様性の観点で解説しています。
生物多様性については、高校の「生物」で学ぶ内容を掘り下げており、わかりやすく解説しています。挿入された図がシンプルで要点をついています。生物多様性の階層性、進化、遺伝的浮動、生物間相互作用、赤の女王仮説など、読んでみると頭にすっと入ってくると思います。
グローバル化が生物多様性の危機を増幅している
次に、各論、つまり著者が関わった生物に関して生物多様性にまつわる話です。
「クワガタムシが語る生物多様性」では、外来クワガタムシによる遺伝子かく乱について、「マルハナバチが語る生物多様性」では、受粉などによる有効性と外来生物としての危険性について、「ミジンコが語る生物多様性」では、農薬の国際基準の不合理性について、「ダニが語る生物多様性」ではナミハダニの遺伝子多様性と経済のグローバル化の問題点について、最後の「カエルの生物多様性」では、カエルツボカビ症を例に、このカビの起源と寄生生物、感染症の危険性について書いてあります。
各論全体を読んで、経済のグローバル化が生物多様性に悪影響を及ぼしていると感じました。実際にさまざまなプロジェクトや法律の制定に関わってきたから語ることができる内容でしょう。
生物多様性を減少させないために
著者はエピローグで、生物多様性を減少させないために次のような行動を促しています。『サイレント・アース』の内容とともに少しでも実行に移したいですね。
電子書籍はすぐに手に入るのはいいが
近所に書店が少なくなってしまった今、電子書籍はすぐに手に入り読めるのは便利です。かさばることも無く、iPadやkindle端末でいつでも読めます。ただ、『サイレント・アース』のように小見出しがない書籍だと、どの程度読んだのか、全体のどの部分を読んでいるのかわからなくなることがあります。訳本にその傾向があります。紙の本の方が全体が見渡せます。手になじんで読みやすく感じています。みなさんはどうですか。