『オン・ザ・ロード』を読む。
長いメキシコまでの〈ロード〉を読み終わって、ケルアックのこの本を読まないと、なにもかも、始まらなかったんだと。。読んでいるうちも、そう考えていたけれど、とにかく、長い〈ロード〉なので、サル・パラダイスとディーン・モリアーティーと一緒に、大陸横断の旅を終えたような感じがしている。その長い物語の途中、雪囲いの冬支度で、重すぎる支柱などを運んでいてぎっくり腰になってしまった。今日はそのぎっくり腰三日目。〈ロードの果て〉、最後のメキシコの旅で、赤痢になって発熱しているサルを置いて、自分の生活に戻ってしまうディーンに、呆れている。その後、ディーンは、東と西の3000マイルの大陸を行ったり来たりして、またしても、サルを翻弄する。サルはサンフランシスコに移住する計画だ。ビートジェネレーション発祥の地、フリスコへ。
ケルアックの文章は、悲しみと淋しさをスパイスにして、アメリカ大陸を横断する。文章の生み出す疾走感と流れる時間や描写される風景が素晴らしい。
繰り返される言葉が頻繁にある。解説によると、「クレージー」「ワイルド」「マッド」は無数で、「雨」とか「夜」「悲しい」「失われた」は頻繁とある。わたしが気付いたのは、まず、悲しみと淋しさ、そしてわびしさ。時々狂ったもあって、思わず、赤いマーカーで線を引いてみた。
デンバーで聴くオペラは「フィデリオ」で、歌手が「なんというわびしさ」と叫ぶ。サルは、これはぼくの人生観そのものだと言う。
次のページではわびしさが続いて2箇所にある。
思わず、ビートには淋しさが似合う!を書き込みをしている。
文章の中の繰り返される言葉について、アメリカ人のSさんと話し合ったことがある(覚えてられないくらい昔)。三島由紀夫の『文章読本』に、一つの文章のなかに、あるいは、その前後に同じ言葉を繰り返すのは、あまりいい文章とは言えないというようなことが書かれていて、それを言うと、そうでもないと思うよと、Sさんは、フォークナーの『THE SOUND AND THE FURY 響きと怒り』を例に挙げてきた。今、この小説を取り出し見ると、同じ言葉がそこかしこにある。書かれている内容からくる文体は自由でのびのびしていて散文詩のようでもある。
三島の文章読本は、取り出してみると、こうである。
わたしの場合、手紙の短い文章を書くときでも、同じ言葉の言い回しは避けることがおおい。がぶる時は、なんとなく、別の言葉を探している。
今、旅をするケルアックの文章を読んでいると、その自由さにうっとりしてしまう。
この青山さんのためらわずつかうという一文がケルアックの文章のすべてだと思う。
これがケルアックの様式!
ケルアックの他の文章技法については解説に詳しい。その中で「即興的文章の要点」というエッセイが紹介されている。それが素晴らしい。
おなじ言葉をつかうこと、そんなに気にすることないんだ。文章を書く筋肉があるとしたら、力が入り過ぎていたんだ。呼吸するように書けばいいんだね。心が脱線しても気にしない。表現の精選はなし!絵を描くときも、息をとめないで描こうとするのだから、文章を書くときも、息をとめないで書く。
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『オン・ザ・ロード』、この本が1970年代に出版されていたら、ビート・ジェネレーションについて、もう少し理解が深まったと思う。その頃は、現代詩に興味があったので、この『オン・ザ・ロード』を読むことによって、一度梱包した荷物を解いているような感じがしている。
『オン・ザ・ロード』が描いている旅への衝動、ここより他の場所への誘惑、そこで出会う人々の景色は、何か淋しげで、悲しげで、愛おしくもある。
最後の方で、インディオの女の子の水晶と、車のトランクからとりだした腕時計を交換する場面で言うディーンの言葉が印象的だ。女の人たちや女の子が、別れを嫌がって追いかけてくる。
「ああ、胸がきゅんとするぞ!」
ビートには、この、きゅんとするぞ!の意味も含まれているような気がする。
一番好きな場面は、メキシコ・シティに入る前、暑い夜のジャングルで3人が苦労して眠るところ。
たった眠るという、ただそれだけのことが、暑い暗闇の動かない空気の中では、美しい言葉に組み合わされて変換される。鉄には涼しさの成分があってという表現が面白くてディーンのようにきゅんとします。暑い闇の中では、優しい保安官が出てきたり、白い馬まで登場します。
青山さんは、『オン・ザ・ロード』はストーリーのない小説で、どこから読んでもかまわないと解説を結んでおられる。ほんとうにどこから読んでも、サルの言葉たちはうつくしく、かなしく踊っていて心惹かれます。
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諏訪優さんは、『放浪』(On the Road)はビート・ジェネレーションによる事実上の作品第一号と言っている。最初買って読んだのは25ページ辺りまでだと思う。万年筆の線がその辺で消えているから。
今、読んでみると、ビート最大の詩人アレン・ギンズバーグの章が感動的に書かれている。吉岡忍さんは、高校生の時、この『吠える』を暗唱していたらしい。アレン・ギンズバーグは、カーロ・マルクスの名前で狂ったシュールレアリストとして『オン・ザ・ロード』に登場している。