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分かち合う心~光州への旅の記録5

光州への旅の記録1~4の続きです。

☆☆☆

光州に来る前、聞いた話があった。
ここ光州では、だれもが、だれに対しても「お腹すいてない?」とチュモッパや食べ物を分かち合う精神が根付いているらしい。

光州に来る前に見た映画「タクシー運転手」にも、オモニが、そこにいる人の空腹を心配し、チュモッパを分け与える描写があった。

光州に降り立ってから、触れ合う人々がとても優しいと感じた。
乗車したタクシーの運転手さん、お店の店員さん、ゲストハウスで出会う人々。

光枝さんと長女が光州民主化抗争記念式典・前夜祭の合唱団に参加し、舞台に立つことになったので、私は客席から記録のためのビデオ撮影をすることにした。

出番を待つ私は観客席へむかった。とくに椅子などは設置されておらず、歩行者天国となっている道路に腰をおろして舞台を鑑賞するスタイルだ。
その観客席は、すでに人でいっぱいだ。

その脇で、ひとり言葉もわからないまま、私は観客席に入り込めず、ビデオ撮影を諦めようとしていた。
すると、既に観客席に座っていたひとりの女性が、私に手招きをして、ここに座っていいよ、というようなジェスチャーをした。

何か話してくれているけれど、言葉はわからない。

見ず知らずの私に?
自分の前の場所を少し空けて、私を手招いてくれている。
日本でこのようなシチュエーションで、入れてもらえることはまずないので、目を疑うが、確かに私に手招きをしている。

私は、「カムサハムニダ」くらいしか言えないけれど、女性がスペースを空けてくれたその場所に腰を下ろそうとした。

すると、その隣に座っていた男性が、レジャーシートを差し出してくれて、多分、「使っていいよ。」と言ってくれている。

またまた、見ず知らずの私に向けられた親切に半分驚きながら、私は合唱のステージを、観客席から記録することができた。

予想しなかった光州の現地の人の親切に、戸惑うほどだった。
「カムサハムニダ」くらいしか言えなかったけど、もっと丁寧にお礼を言えばよかった。

食べ物や、ものを、自分のものだと主張し、囲い、所有する。
土地や場所も、自分のものだと境界をつけ、その外側にいる人を寄せ付けない。
自分の住まう環境の、そんな側面を思い出していた。

光州に来る前に聞いた、そこに根付く精神。
だれもが、だれに対しても「お腹すいてない?」とチュモッパや食べ物を分かち合う。


今回の旅の、ステイ先の玄関の前に咲いているオレンジ色の花。
どこかから飛んできた種が自生し、花を咲かせたという。

この花のことを調べてみた。

この花は、ポピー。
オレンジ色のポピーの花言葉は、
「思いやり、優しさ」だった。

どこかからきた私への、光州の人の思いやりと優しさを、私はずっと忘れない。


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