海と母の記憶 ~光州への旅の記録2
光州への旅の記録1の続きです。
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博多港を12時に出発し、
光と水が化学反応を起こした虹の海路に揺られ、約6時間。
海という文字には、母という文字が含まれる。
海水の塩分濃度は、胎内の羊水のそれと同じらしい。
人の遠い祖先が、海から陸に上がって暮らしを始めた時の塩分濃度が、今も私たちに保持されている。
私たちの細胞には、太古の記憶が今でも残されているにちがいない。
前日の嵐が残した風は、母の胎内にいるような心地よい揺らぎを与えてくれた。
そして、つかの間の眠りに落ちた。
目覚めると、傾いた太陽から受け取る光はオレンジ色に変わっていた。
子どもの頃、母に読んでもらった絵本のエンディングが、
「きれいな夕焼けの次の日は晴れる」
と締めくくられていたのを思い出した。
だけど、なんという題名の絵本だったのか、思い出せない。
思い出せそうで、思い出せない。
思い出せそうで思い出せない絵本の題名に、
目覚めた時に見た夢を思い出せそうで思い出せないような
少し歯がゆい気持ちを覚えながら、
明日の晴れ渡る青空を予感した。
フェリーカメリアが釜山港に入港し、高層ビル群が目に入る。
港まで迎えに来てくれた長女と合流し、
港から駅へ向かうスカイウォークで、釜山駅のすぐそばにあるホテルへと向かう。
ホテルから見える釜山タワーに、なぜか懐かしい感情がこみあげてくる。
一晩のステイを経て、明日は早朝の高速バスで光州へ向かう。
明日はきっと、晴れる。