エッセイ351.着物を買ってしまいまして
割と近くに一人暮らししている次女に久しぶりに会ったところ、前から連れて行ってやると言われていた2つのお店に連れて行かれました。
一つは古着屋さんで、私は背が低く、サイズ的に課題の多い体型なので、よく行く下北沢などに、いくらたくさん古着屋さんがあろうとも、買うことはできません。というより、なんか素敵なお店に素敵な若人らがいっぱい出たり入ったりしているのに気おされて、横目で見るのみです。ところがこの日行った古着屋さんが、安くて、サイズも良さそうな服がたくさんあり、一度に4着も買ってしまいました。いずれも主婦マガジンなどによく出てくる、「はおりもの」と称して、ふわっと着て、あっちも隠し、こっちも隠そうというデザインのものばかり。
さすが、オノレを知っています。
こそこそと次女に訊きます。
(おかん、試着嫌いで、しないんだけど・・・)
(うちもせえへんで〜)
近頃はやりのビッグなスリーブものも、安いからと言って買ってしまいました。これから10年は服を買わなくて良い感じです。
その次に、甲州街道沿いの NEWSというリサイクルショップに行きました。
これは、昔この辺に住んでいた時に、途中でできたお店でしたが、今もコロナに負けず元気に営業していて、倉庫のような大きな店内には、家具から食器、服、楽器。
意味不明な国籍不明的な飾り物も数多くて、今、親の遺品の断捨離で苦しんでいる私は、
(こんなものある・・こんなものもある・・
なんならうちの親たちのしょうもないものも、売れるのでは・・)
と、つい夢想してしまいました。
「次女次女、うちのジジババの、意味不明な品物があるじゃんね?」
「あるねぇ・・・あっ、おかん、ここなら売れる!」
「売れると思う?」
「ぜってぇ売れる、持ち込みやぁ」
じゃんね、とか、やぁ、っていうのは、まだまだ名古屋弁が出ますね。
もう、ハイエースでもレンタカーして持ち込もうと決心しました。
ふと見ますと、羽織や着物、帯がハンガーにどさっとかかっています。
値段がついていません。
ハンガーポールに 350円というのを消し線で消し、
100円
と書いてあります。
いやいやさすがに100円はなかろうて。
そうか、このへろへろな長襦袢が100円なのだろう。
ちょっと欲しいものもあるけれど、値段が書いていないのにレジに持って行って、
はい3500円です。
と言われると焦ってしまうと思い、気持ちはひるみます。
私はかつて、東京にもある、名古屋の質屋さんからできたお店の「コメ兵」のリサイクル着物部で、ブイブイ言わしていました。
なので、2000円以上の帯や着物を買うわけはありません。
でもほしい。
これもほしい。
着るあてもないし、もう袷の時期はあまり残ってないし、
グローバルウォーミングでもうときどき暑いし、どうしよう。
でも、ほしい。
よろしい、値段を聞いてみて決めましょう。
すみません、これはおいくらですか?
着物ですか?
着物はみんな100円です。
えっ
と思わず低い声で驚いてしまいました。
やっすいですなぁ!
などと、言わなくてもいいことを口走りそうになったので、うつむいて、
コレクダサイ
と呟きました。
葡萄色と呼びたい。
よく見るとエジプトのヒエログラフみたいな模様が連なっています。
これに合う帯を持っているんです。
もう一枚はこれです。
黒と見まごう深い緑地に、菊の花、そのバックは一見絞りのようですが、とても細かい銀色の鱗紋様です。上半身は。後ろから見た片袖だけにこの模様があり、同じ模様がぐるりと裾模様になっています。地味ですが、袂から溢れる紅絹がなかなか鮮烈というか、若い人が着たら地味派手で色っぽいと思います。
さて、鱗紋様は、蛇体、魚の象徴です。
「道成寺伝説」というのがありまして、清姫という娘が、好きになっちゃったお坊さんを追いかけて、日高川をバッシャバシャ泳いで渡って追いかけます。
で、自分の求愛を受け入れてくれないからといって、安珍(イケメンのお坊さんね)が隠れた鐘を、火を吹きながらぐるぐる巻きにして中の男を焼き殺してしまったということです。ああ、パッション過多の清姫。
ドラマ「俺の家の話」で、寿限無がやって、鐘の下でピョーンと跳ねて、かっこよかったですね。
能と歌舞伎にもなっています。歌舞伎の方はいろいろなバリエーションがあります。
本当に怖いですね。
うぉー・・・
ほら、着物も鉢巻?も、ウロコの模様。
歌舞伎の方では、京鹿子娘道成寺。
私は玉三郎をたくさん見られて、幸せな世代でした。
こちらも凄味がありますね。
100円で買った二枚の着物。
両方とも、袷《あわせ》で、一応、しつけがついています。
ということは、袖を通すのは私が初めてになるわけです。
鱗模様の帯というのは、とてもモダンなものですが、この鱗柄の入ったほうは、寄り目になって近づいてみないとわからないぐらい小さな鱗模様なので、締める帯は大胆な鱗柄で、これでウロコづくしなんてどうかなぁ。
100円だったので買った、には違いないのですが、着る機会もないのについこのように着物をまた増やし、あの帯に合わせようとか、帯角出しにしたらカッコつけすぎか・・・半幅で浪人結びもいいか、いや、このような凝った意匠の着物だからこそ、普通にお太鼓の方がいいでしょうなどと、着物の沼にまた、つま先をちょろっとつけてしまいました。
帯や腰紐は、私の腰痛にも非常に良いです。
あの位置でぎゅっと閉めるのは本当に健康にいいのだそうです。
今週末はまた冷え込むということなので、着て出かけてみようかな。
・・とちょっと考えています。