エッセイその89.翻訳の沼(3)昔の翻訳と食べ物③
私は何故か、翻訳家の友人が多いのですが、最近、また一人翻訳家の人と知り合いました。
息子のような年齢の ネイティブ・イングリッシュ話者です。
アニメやコミック、小説やゲームの趣味が合い、話が尽きません。
その彼より、
「よかったらtamadocaさんの訳したものを一緒に読んでみませんか」
との提案がありました。
一緒に読んで・・と言ってくださいましたが、彼の方が全然語学力がありますので、私に教えてくださろうということです。
ありがたやありがたや・・🙏
彼とお話ししていると、「てっきり」とか、
なかなか上級者でも使いこなせない日本語の表現が飛び出してきて、
その日本語の水準の高さがすぐにわかりました。
せっかくのお申し出なので、まずは私の疑問や、翻訳沼の思い出について、
メールでお話しさせてもらうことにしました。
その様子をブログに書いても構わないというお許しが出たので、早速今日、書いてみたいと思います。
•・・・ここから・・・・・
From 自分
To Aさん
件名: 翻訳こぼれ話
Aさん
以下はお時間のある時に読み流してください。
こぼれ話というのは、
「大盛りに盛ったものが、つい、こぼれてしまったような、
大事じゃない話ですが・・」
という感じのある定型的な言い方です。
私は子供の頃からたくさん本を読んだ方でしたが、
外国語から翻訳された童話が大半でした。
何十年も前のことなので、
「原作の書かれた国では普通にあるけれど、
日本にはまだ紹介されていない、または存在しないもの」
もたくさありました。
面白い例が、リンドグレーンの「やかまし村」シリーズで、
こんなところがありました。今でも忘れません。
あるお祭りでは、
「この日は、ザリガニをたくさん茹でて、バケツに大盛りにして、
大人も子供もエプロンをかけて、手掴みで楽しくワイワイ食べるのです」
(正確ではないですが、こんな感じ)
というのです。
これを読んで私はびっくり!
というのは、子供の頃、家の前には幅30センチぐらいの、
ものすごく汚い側溝があり、メタンガスがブクブク沸いていました。
臭くて汚いどろどろの水に、ゴミと、「ザリガニ」がたくさん。
男の子たちが、割り箸に糸をつけて、ザリガニを釣っていました。
一匹釣ると、そのザリガニを千切って糸につけ、
また別のザリガニを釣るのです。
女の子たちはそれを見て、
男子ってほんと、バカだよねぇ。
汚いよねぇ。
と言い合っていました。
親たちは、
ザリガニなんか触ったちゃいけない、
触ったらすぐ手を洗わないと病気になるよ
と言うのでした。
ばかな男子は、ザリガニを手に持って女の子を追いかけました。
私たちは嫌悪感でいっぱいになって、逃げ回りました。
そのザリガニを?!
スウェーデンの人は茹でて食べるの?
本当にびっくりしました。
スウェーデンの人は、ザリガニ食べて死なないのか!
・・と。
後年、実はそれが「ロブスター」であるのがわかりました。
大きさは全く違うけれど、確かにロブスターとザリガニは、
エビとは違う、同じ種目です。
翻訳がされた時代には、日本人はおそらく
ロブスターを食べなかったのですが、
同じ種目で「伊勢海老」はあったのです。
伊勢海老と書いたら、「当たらずといえども遠からじ」だったはず。
翻訳を、完璧にできるということはないそうです。
しかし、翻訳家は少なくとも、対象言語をある程度、
悩まずに話し、書けないといけないと思います。
それなら「原文が透けて見えるような翻訳」
は、ある程度避けられるのではないでしょうか。
ザリガニ
https://search.yahoo.co.jp/search?p=ザリガニ画像&ei=UTF-8&fr=applpd&pcarrier=ドコモ&pmcc=440&pmnc=10
伊勢海老(≒ロブスター?)
https://search.yahoo.co.jp/search?p=伊勢海老画像&ei=UTF-8&fr=applpd&pcarrier=ドコモ&pmcc=440&pmnc=10
お忙しいところ、大変失礼いたしました。
•・・ここまで・・・・
これに対し、早速丁寧な感想をいただきました。
「ザリガニの話を読んでつい笑いました」と始まる返事は、
私の子供の頃がイメージできて面白かったこと、
「本当にあんな恐ろしいものを平気で食べるの?!」
という反応であっても仕方がないこと。
また、翻訳の世界ではこういうことが結構多い事など、教えてくれました。
Aさん、なるべく短く書くようにしますので、またよろしくお願いします。