【読書】作者の術中にワザとはまってみると、ただ気持ちがいい
平野啓一郎『空白を満たしなさい』
文庫上下巻で長かったが、夜中にようやく読み切った。
釈然としないところがあって、何度も読み直したが、読み終えてみてすっきりしている。
絶対あり得ない設定で色々あり得ないのだけど、途中で、「はいはい、もういいよ」とはならない平野啓一郎の創造力にまたも引きこまれた。
登場人物に思いをはせる、共感するという小説っぽさではなく、「ああ、なるほどね。そういうことか」という指南書。
本作はだいたい暗い。明るい場面でも間接照明でかなり落としたくらいであす。
それがちょうどよくて、やけにリアル。
「個人」と「分人」がまぎれもなく主題なのだろうけど、それをそこに至る前工程はまるで違う作品。
それだけに、主題が引き立つ。
本当にこの人の作品は読後感が異様です。(良い意味で)
平野啓一郎という作者について
原田マハ同様、美術の描写が品が良いのも、毎度読むたびにハマって抜けられなくなる要因かもしれない。
家族愛だの死生観だのに小細工はいらない。1枚の絵画を見るがごとく、ただ感じたままに、まっすぐに書かれているかのようだ。
(作者の手のひらで踊らされている読者という自覚あり。)
平野作品に向き合うわたしの分人は、「穏やかでありながら、野心的」なのだ。
この記事が参加している募集
都会で実践できる農ライフ、読書、ドイツ語、家族などについて「なぜかちょっと気になる」駄文・散文を書いています。お読みいただき、あなたの中に新しい何かが芽生えたら、その芽に水をやるつもりでスキ、コメント、ほんの少しのサポートいただけると嬉しいです。