世界史 その1.5 歴史の話は地図を見ながら。
昔、高速道路を使わずに伊豆半島を車で旅行したことがある。
箱根で一泊した後、熱海に出て海岸線沿いに南下したんだ。曲がりくねった海岸線沿いの道路は延々と続き、予想以上の時間がかかった。本当に本当にどこまで行っても、目的地にたどり着かないと思った。帰りは内陸の道をたどり、「天城越え」という歌で有名な天城峠の近くを通るルート。「天城越え」の歌や、小説「伊豆の踊子」に所縁の地名があちこちにあったが、森や崖に囲まれた薄暗い山道という印象だった。
それからずっと後、今度は高速道路を使って伊豆半島の南端に近い下田に行った。黒船の形をした遊覧船を見て、下田が日米和親条約で最初に外国に開かれた港だったと思い出した。と同時に一般道で伊豆半島を旅行した時のことも思い出した。2つの記憶は結び付いて、何故下田が開港する港に選ばれたのか、理屈でなく感覚で理解できた。別にペリーや黒船について特別な感心があったわけでもなければ、その時鎖国についてじっくり考えているわけでもなかった。それは全く頭の中で時限爆弾が弾けたように、突然頭の中に完成した形で沸いてきたんだ。
何でもいいから地図を見て欲しい。海路を使えば下田と江戸は遠くない。ところが自動車も高速道路もない時代、陸路では単純に行くだけでも容易ではなかっただろう。海外との交流によって得られるメリットは確保しつつ、一般の人々には海外の情報に触れさせたくないという幕府の意図が、理屈ではなく直観で理解できた。
長々と自分の個人的な経験を書き綴ってしまったが、歴史を学ぶとき地理の知識は絶対に必要だ。単に国名や国境線だけでなく、地形や天候気候、栽培される作物、植生、地下資源、港に適した海岸河岸の有無、海流や海底地形。それらすべての事柄が人々の営みに関わってくる。
実際にその場を訪れてみるのが一番いいのだけれど、地図をじっくりと観ることで見えてくるものが確かにある。
ここで歴史地図の読み方を詳しく解説するのは、僕の知識を超えているのでできないのだけれど、歴史の勉強をするとき、ダイソーの地図帳でもいいから傍らにおいて出てくる場所を確認しながらするだけで、だいぶ理解が違うんじゃないかなぁと思っている。
地図を広げて、当時のその場所の様子を想像する。どんな人々が暮らしていたのか想像する。現代のその場所を思い浮かべる。その場で今暮らしている人々の生活を思い浮かべる。本やネットやテレビの情報だけでは、それがどのくらい実際に近いのかなかなか分からないのだとしても。
世界史その1では多くの地名が登場し、気候や植生についても語った。シュメールとアッカドというタイトルを予定しているその2では更に多くの地名が登場するだろう。その時に単なる都市名国名の羅列にならないよう、気をつけていきたいと思っている。
地理が分からないと歴史の理解は表面的なものに留まるだろう、ということには確信があるのだけれど、それを君たちに伝える言葉にあと一歩手が届いていない感覚がある。いつかもっと論理的に説明することができるようになったら、この項を全面的に書き直すか、「世界史その1.5改訂版」のページを作るかしたいと思う。