高い窓/東へ|weekly vol.088
今週は、うでパスタが書く。
またシステムエンジニアによる悲しい事件が起こってしまった。
こういうことが起こるたび、会社は従業員に対し「悪いのはあなた方の無知です」と教育し、元請けは下請けに対し「従業員から会社を守れない“仕組み”の問題だ」と指摘しながらその下請けと「しっかり紙を巻いて」(注:書面で契約を交わす意)仕組みを作った気になっている。
発注元はそもそも何が問題かももはや分かっておらず、「怒ってるだけでいいのは楽だなぁ」などと本心では考えている。だいたいにおいて怒っているひとの考えていることというのはそういうものだ。あまりまともに取り合うものではないと思う。
僕はある種のキャリアにあった際、なぜだかそういうトラブルシューティングを専門にさせられていたのでかなりの数の不祥事・不正行為やときには犯罪をまで扱うことになったが、本物の悪意からなされた行為というのは結局ただの一件しか目にすることがなかった。
この一件というのは本当にサイコパスな事件で、こいつはどこまでも、どこへ行っても自分以外の人間を利用して、最終的にはそれに害を為して生きていくのだろうなという、そういう感触しか得るものがなかった。
もちろんそういう生き方もあるのだろう。ただしこういう人間はふつう歳をとるとともに手がける犯罪も低級なものになっていき、最後は野垂れ死ぬ。なぜなら支える者のいない人間は加齢とともに弱るほど、周囲の食い物にされるからだ。関西にある「ろくな死に方せぇへんで」というのはそういうことを言っている。なぜ関西にだけそういう言葉があるのかは、よくわからない。
他方、ほとんどの場合でことの発端は本人の愚かさや出来心にあり、組織としての予防の本質は「従業員から会社を守る」のではなく「従業員の愚かさや出来心から従業員本人を守る」というところにあるのだという結論に至っている。
たとえとしては、会社の備品調達に安売りショップを見付けてきたエンジニアがおり、そのまま彼が発注の窓口を引き受けていたのだが、実はこのショップには一%のポイント還元が設定されていて、このエンジニアはちょっとした出来心で(というか最初はポイントの存在に気付いていなかったのだと思うが)あるときからこのポイントを着服して自宅のPC環境構築に着手してしまうのである。
しかしやがて弊社の調達額がまさかの一億円を超えてくるに至り、そのとき彼の着服額は(未使用のポイントを含めて)百万円にのぼるのだが、いまさら「実はポイントが貯まっていたみたいです」とか言いだすと「いやおまえすでに使うてるやんけ」と言われてしまうし、上司から「あの店、ポイント還元とかないの?」と尋ねられても「ありません」と答えるしかない(この返答はのちに犯意を裏付ける決定的な証拠として僕から突きつけられることになる)まま、ひたすらグラボとかを買って家ですごい環境でゲームをやるだけのまさに砂を噛むような日々を送るという、こういうひとがいた。
別にうちみたいな会社を首になったりしたところで「人生を誤った」とかは全然思わないが、本人にとっても辛い思い出には違いないだろうし、「倫理」というのは小さな裂け目、分かれ目であってもその先に大きく道を違えることがあるので注意が必要だ。
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