オイリーインディア
「油の量がすごいですね」
よく料理教室などすると投げかけられる言葉である。
「カレールゥの方が多いんですよ」
と苦し紛れに答えたりしている。
15歳になってまもなくインドで勉強をすることになり、英語が中学レベルであった私はムンバイで2ヶ月くらい父の友人の家に滞在して毎日英語の先生のところに習いに行くことになった。
だいたい東京ームンバイ便は深夜に着くと決まっている。入国審査を通過して預けていた荷物を受け取り空港から出て行くとムワッとした熱気と人の多さに怯んだが、なんとかおじさんを見つけることができ彼の車で無事にムンバイの家に着くことができた。
翌日からほぼ毎日、歩いて20分くらいかかる英語の先生の家に通っていた。
そして初日から必ず頭にはココナッツオイルを塗っていた。おばさんが教室に行こうとした私を捕まえ頭に何か塗ったかと思ったら櫛で髪型を七三分けにしてくれた。それから2ヶ月毎日ココナッツオイルを髪に塗り最初は七三分けだった髪型はオールバックになっていった。ココナッツオイルを最初に身近に使った最初の思い出である。そしてあの炎天下のもと私を守ってくれたのもココナッツオイルだったことは間違いない。
その後も様々な場所で色々な油使いに出会ってきた。
私の故郷、西インドはグジャラート州の田舎では大事な客が来るとお米にギーと砂糖をかけ食べさせる。どちらもグジャラートの名物であり貴重品である。
南インド、ケララのアーユルヴェーダの施設に滞在していた時は定期的に男が二人がかりでごま油を私の体全体に塗ってマッサージみたいなものをしてくれたし、たまに頭に油を流してスッキリさせてくれたりもした。
ヨガの施設では目の周りに何かで土手見たいのを作りその中にギーをたっぷり入れてくれた。ギーの中で目をパチパチとさせると口の中にギーの味が広がり、目と口が細い管で繋がっているのを初めて知った。そしてギーがその管を掃除してくれるのである。
インドの路上屋台では揚げ物であふれているし、生活の中でも油はあふれている。
地域によって主に使われる油は変わってくる。北インドではギーがよく使われているような気がするし、西インドではギーも使われるがピーナッツ油も多く使われている。東インドに行くとマスタードオイルがメインである。南インドでも東側はごま油を多用し、西側はココナッツオイルを好んで使っている。
油が変わることによって香りも変わるのでそれぞれの地域での料理の特徴も変わってくる。
そしてどの地域で使われている油にも共通するのはどれも発煙点が高いことである。
油の発煙点が高いから多様なスパイス使いが生まれたのか、スパイスが豊富だから発煙点の高い油が作られるようになったのか。
油使いが上手くなればインド料理やスパイス料理の腕が上がるのは間違いなさそうだ。